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http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1298520872/470-523 「ふう……」 夕食を終えて自室に引っ込んだ俺は、畳の上に仰向けになって、天井の木目をぼんやりと眺めながら、ため息を吐いた。 とにかく、昨日今日と色々なことがありすぎて、俺の頭の中は混乱していた。 突然の思いがけないあやせの訪問、それに禅寺での保科さんとの、あやせをからめてのセッションは、こっちに来て からというものの、下宿屋の女主人としか会話らしい会話がなかった俺にとって、良くも悪くも久々に感情を交えたやり とりが出来たひとときだった。 あ、赤城との電話もあったな……。 だが、麻奈実の一件があるから、あいつとの間柄は微妙なものになっちまった。 「あいつと麻奈実が付き合っているってことよりも、遠慮なく言い合える悪友が居なくなっちまった方がキツイぜ……」 そんなことを呟きながら、俺は目をつぶった。相変わらず俺のことを嫌いだと言い放ちながらも、強引にキスをした あやせの姿が脳裏に浮かび、次いで和服姿の保科さんの姿が浮かんだ。 いつもなら、『ブチ殺しますよ!』と喚くはずのその口が俺の唇に吸い付いてきて、さらには、大胆にも舌まで絡めて きたんだから、驚きだ。 そのひと時は、紛れもなくうつつだったんだが、あまりにも突飛な展開で、未だ何かに化かされていたんじゃないか という気持ちが捨てきれない。 保科さんとの一件もそうだ。 大学でさして目立たない俺に、彼女のような超絶美人の令嬢がわざわざ興味を示すなんてことは、どう考えても あり得ないことだった。 「う、何だ?」 結論が出そうにないことを、物憂げに思案していた俺は、シャツの胸ポケットで着信音を奏でている携帯電話機で 現実に引き戻された。 誰からだろうと思って液晶表示を見れば、それは親父の携帯端末からだった。 「もしもし……」 だが、相手はお袋だろう。 『ああ、京介ぇ?』 案の定だ。 俺の携帯は、実家からの電話を着信拒否に設定させられている。桐乃の携帯電話からのも同様だ。そのため、お袋 からの電話は、親父の携帯からというのが常だった。 高坂家での長男に対する扱いのひどさってのは、実際どうなんだろうね。別段、今に始まったことじゃないんだけどさ。 「…………」 しかも、お袋が口にするのは、桐乃、桐乃、桐乃、の一辺倒。 何でも、高校でも成績優秀で、陸上競技部の一年生エースだとかで、親として鼻が高いんだとさ。 そりゃ結構なことで。 だがな、その桐乃が変に色気づいたから、俺は故郷から遠く離れたこの街に追いやられたんだぞ。分かってるのか? 昔からそうだが、デリカシーのない女だな。 『でね……』 当然に俺の心情などは、お構いなしのお袋は、散々に桐乃、桐乃、桐乃とまくし立てた挙句に、とんでもないことを 抜かしやがった。 『桐乃は間違いなくT大にも合格するし、陸上競技でも相当なところまで行くと思うのよ。 でね、そのために色々と物入りで、悪いけど京介、今からでも育英会の奨学金を申請してくれないかしら』 「どういうことだよ」 敵の魂胆は読めていたが、こっちから結論を急がないことにした。そうしたからって、結果は変わらないんだけどな。 『う~~ん、奨学金が出るようになれば、その分、仕送りが少なくなっても問題ないでしょ? そういうことよ』 「そういうことって……」 分かってはいたが、いざ聞かされると、本当にむかつくな。携帯電話を握る左手が、怒りでぶるぶると震えている。 たしかに桐乃の成績だったら、T大も楽勝だろうさ。陸上競技だって、超高校級かも知れねぇ。 だが俺だって、そこそこ自慢できる大学に合格した身だ。あんたの息子にしては上出来過ぎるほどだろう。なのに……、 『出来の悪いあんたと違って、桐乃は高坂家の誇りなんだから。あんたも桐乃のために我慢なさい』 あっさりと抜かしやがった。畜生め……。 『ふざけんな、バカヤロー!』と、思いっきり怒鳴りつけてやりたい衝動を何とか抑えて、俺は努めて冷静を装った。 だが、こうまで言われっぱなしだと、嫌味の一つも言いたくなるよな。 「もう、ご自慢の娘さんの話は聞き飽きた。どうせなら本人の声を聞きたいな。居るんだろ? 家にさ。 桐乃に代わってくれよ」 その途端、ブツッ、という無愛想な音とともに、通話は一方的に打ち切られた。 「けっ、ガチゃ切りかよ……」 俺は、舌打ちしながら起き上がり、携帯電話機を座り机の上に置いた。 久しぶりにあやせに会えたっていうのに、全てがぶち壊しになった気分だな。それにさっきのお袋の様子じゃ、奨学金 の申請が通るか否かにかかわらず、仕送りは減額されるだろう。 「地獄だな……」 何だか、事態はどんどん悪い方へ転がって行きやがる。 その悪化していく状況に、俺自身では歯止めを掛けられないんだから、たまったもんじゃねぇ。 仕送りが減額されることは確実とみて、明日にでも学生課に赴き、奨学金申請の手続きをするしかない。 それと、奨学金の申請が認められなかった場合にも備えて、何らかのアルバイトをすることも覚悟しておいた方が いいだろう。 「金はない……。知人も居ない……」 これが、いわゆる五月病って奴なんだろうか。背伸びして難関大学に合格したものの、講義についていくのが精一杯。 仕送りは最低限で、身の回りの物も十分には賄えない。 そして何より、家族からは見放されたも同然で、周囲には女友達はおろか、相談できる男友達も皆無と来たもんだ。 ゴールデンウィーク明けに、大学生とか新社会人の自殺記事が新聞の片隅に載ることがあったが、 今の俺にとっちゃ他人事じゃないわな。 自殺する奴の気持ちが、痛いくらいによく分かる。 だがよ、お袋がいかに俺をボロクソに扱おうが、俺はこの程度でくたばるようなタマじゃねーんだよ。 昨日今日はあやせがはるばる来てくれたし、つい数時間前だが、信じられないことに、濃厚なディープキスを交した。 あやせの本心は未だ不可解だが、俺のことを憎からず思ってくれていると信じたい。 それに、束の間ではあったが、学内随一の超絶美人である保科さんと、一緒にお茶を嗜むこともできたんだ。 彼女を女友達とみなすのは恐れ多いが、とにかく、地元出身の学生と初めて会話らしい会話が出来たんだ。 一大収穫と言っていい。 「居場所を作ることだな、俺にとってのここでの居場所を……」 あやせとの遠距離恋愛も、保科さんとの会話も、ここで単身頑張っていく励みにはなったが、それだけでは足りない。 「赤城のようにバカを言い合える友人、麻奈実のように気軽に話せる女友達、そうしたもんがないとな……」 本当に信頼できる友人知人は、一朝一夕には見つからないだろうが、それも運次第だろう。 何かがきっかけとなって、事態が思いもかけない方向へ転がり出すかも知れないからな。 「もう寝るか……」 時刻は、午後十時前だったが、今日は本当に色々なことがあり過ぎて疲れた。 明日は明日の風が吹くって言う訳じゃねぇが、日々、頑張っていくしかない。 俺は、明日提出の民法のレポートと、英文法と第二外国語のドイツ語の予習がどうにかなっていることを確認すると、 布団を敷いて横になった。 「こっちの布団は、昨夜、あやせが寝ていたやつだ……」 ほんのりと感じるのは、彼女の残り香だろうか。 だが、心底疲れていた俺は、その残り香が気になったのも束の間、泥のような眠りに落ちていった。 * * 長いようで短かった連休が明けた五月六日。俺はいつも通り、法学部の教室の隅っこの方にぽつねんと座っていた。 教室の前の方には、華やいだ雰囲気を醸している女子の一団が陣取っていて、その中には、昨日、禅寺で思いがけ ない出会いをした保科さんが居た。 和服姿だった昨日とは違い、腰の辺りまで届く艶やかな黒髪をストレートにしている。枝毛が全くなさそうな、こんなに もしなやかな髪は、俺の知っている限りでは、他には黒猫ぐらいだろうか。面立ちは、瓜実顔とでも言うべきか。色白で 鼻筋が通り、やや面長な印象だ。まるっきり丸顔な桐乃はもちろん、桐乃ほどではないが、どちらかと言えば丸い印象の あやせとは完全に趣を異にしている。桐乃やあやせと似通っているのは、ほっそりとした体型ぐらいだろう。背は、もしか したら、あやせの方が少しだけ高いかも知れない。 「隙がない美人って、居るんだなぁ……」 単にルックスがいいとかってレベルじゃなくて、その存在に華があるとでも表現すべきか。 この地方屈指の名家の令嬢ってのは伊達ではないらしい。おそらく、幼少時から、躾や習い事とか勉強とかで 磨かれてきたんだろう。それでいて高飛車なところが全くなく、いつもにこやかに微笑んでいる。 「昨日のことは夢だったのかもな」 同級の女子と楽しそうにおしゃべりしている保科さんは、当然のように、俺が居る教室の隅っこの方には目もくれない。 でも、これが現実なんだ。 彼女とは昨日、禅寺でたまたま出会った。 そして、俺が、それなりの美少女であるあやせと一緒だったから、俺にも一時的に興味を持った。 さらには、俺が彼女と同じ大学の同じ学部の同級生で、今日これから提出するレポートを読んでいたから、俺と暫し 話し込んだだけなんだ。 「それに、何の取り柄もない俺なんかに、変に目線向けられたら、ヤバいことになっちまう」 彼女に言い寄る男子は、同級生から上級生まで、それこそ数えきれないほど居るに違いない。もしも彼女が昨日の ような調子で俺に話しかけてきたりしたら、俺は翌朝、市内を流れる川に浮かんでいるかも知れねぇ。 「保科さんと親密に話す機会は、もう、あれっきりなんじゃねぇのかな……」 いや、待てよ。二週間後に保科さん宅で開かれる野点に、あやせ共々招待されていたっけ。 だが、あれも今となっては、夢幻だったんじゃないだろうか。 実際、招待状とやらを受け取っていない以上、本当に俺たちが招待されているのか否か、はっきりしないからな。 「お~い、静かにしろ!」 いがらっぽい声とともに、頭がつるつるに禿げ上がった小太りの初老の男性が教室に入ってきて、ざわついていた 学生達を一喝した。 禿頭がタコ坊主を連想させることから、誰言うとなく『タコ教授』と呼ばれている民法の担当教授のお出ましだった。 「では、連休前の宿題にしておいたレポートを回収する。後ろの席から前の席に、順繰りにレポートを送ること」 俺のすぐ後ろの奴が、無言で何人分かが束ねられたレポートを俺の右脇に突き出してきた。 そのレポートの束に自分のレポートを重ね、俺もまた前に座っている奴に無言でレポートの束を突き出した。 そんこんなで、学部一年の全員のレポートは手際よく回収され、タコ教授の講義が始まった。 「では、物権の妨害排除請求権について……」 退屈で眠気を催す講義ではあるが、民法は必修科目だから聞き漏らすわけにはいかない。 俺は眠気をこらえながら、タコ教授の声に聞き入っていた。 眠いことこの上ない眠法じゃなかった、民法の講義の後は、学生に読ませ訳させるソクラテス方式で恐れられている ドイツ語の講義を受け、学食で不味いラーメンを食い、午後は教養科目である物理学と、国際法の講義を聴講して、 本日の予定を終えた。 おっと、学生課に寄って、奨学金の申請書をもらうのを忘れるところだった。 あまり気は進まなかったが、壱号館の薄暗い廊下の奥にある窓口に行き、一通りの説明を受けて書類一式をもらっ てきた。 何でも、四月に受け付けた申請者の中から、かなりの数の不適格者が出たとかで、追加の申請は一応は受理すると のことらしい。 しかし、受理はされても、審査ではねられるおそれがかなり高そうだ。 奨学金は、高校での成績が余程いいか、親の年収が余程低いか、あるいは母子家庭とかなら、申請が認められるん だが、あいにく、俺はそのいずれにも属しない。 「こりゃ、バイトも覚悟しておくか……」 奨学金が受けられそうにもないことを思うと鬱な気分になるが、ひとまず、今日の学内での用件は、これで終わりだ。 サークルにも何にも属してない俺は、後は帰宅するだけだ。 帰れば帰ったで奨学金の書類の記入と、明日の英文読解と刑事訴訟法の予習が待っている。 昨日、あやせと一緒に乗った路面電車に乗り込み、下宿最寄りの停留所で降り、車の往来が途絶えた隙を見て車道 を強行突破した。 俺はもうさすがに慣れたが、車道のど真ん中にあるくせに、乗降客用の信号も横断歩道もないなんて、物騒この上 ない停留所だな。これで死亡事故が起きてないんだから、世の中はよく分からない。 運命を司る神とか悪魔とかは、恐ろしく気まぐれなんだろう。 「さてと……」 下宿の女主人に帰宅した旨を告げるのもそこそこに、俺は自室に引っ込んで、学生課からもらってきた奨学金申請 の書類に、本人が記入できる事項を書き込んだ。それを『高坂大介様』と宛名書きした封筒に収めて封をした。明日は 講義が終わってから中央駅前の大きな郵便局に寄って、実家へ送付してもらえばいい。後は、おそらくお袋が、親父の 年収とか何とかを、適当に書き込んでくれるだろう。 「こういうのってのは、面倒臭くってなぁ」 時計を見ると午後六時近い。何だかんだで、一時間半も申請書とにらめっこしながら、それに必要事項を記入して いたようだ。大学当局とか、この奨学金を管理している育英会とかの公的機関に出す書類ってのは、どうにも記入が ややこしくていけねぇ。ミスったら受理されないから、勢い慎重にもなる。記入にはどうしたって時間がかかるのだ。 「すっかり遅くなっちまったぜ」 俺は、パソコンを起動した。明日の刑事訴訟法の講義に備えて判例を検索するためだ。あと一時間もすれば夕食の 時間だが、少しでも下調べをしておきたかった。 「しかし、インターネット様々だな……」 値が張る上に、分厚くてクソ重い判例集がなくても、今は重要判例を検索できる。まれに、インターネットでは公開 されていない判例もあるが、そうしたものだけを図書館常備の判例集で調べればいい。 「おっと、その前にメールもチェックしておくか」 パソコンのメアドは、大学当局には知らせてあったから、時折、当局から通知が来ることがある。それに、Amazonとか で書籍を購入する際の連絡先としても、そのメアドを指定していたから、特典等を知らせるメールマガジンが、しばしば 入り込んでくるのだ。 だが……、 「件名『探しましたぞ!』、差出人『槇島沙織』だと?!」 沙織を名乗る者からの開封通知付きメールを認めて、俺は驚愕した。 バカな。沙織には、このパソコンのメアドは知らせていない。 「まさか、新手のネット犯罪じゃねぇよな?」 開封通知付きってのが怪し過ぎる。 開封せずに破棄しようかと思ったが、本当に沙織からのメールかも知れないかと思うと、それは出来なかった。 「ちょっと見て、怪しかったら、速攻で削除だ」 思い切って、そのメールをクリックした。 『沙織でござる。 京介氏、そちらに引きこもって以来、つれないではござらんか。 しかし、隠者のような暮らしにも、そろそろ飽いてこられたのではありますまいか。 いい加減、我々の前に、そのお姿を見せていただきたい。 京介氏が嫌だとおっしゃられても、近日中に、黒猫氏共々、そちらへ参上仕るのでよろしくでござる。』 「げ!」 沙織からのメールには違いなかったが、その内容は仰天ものだ。 「近日中に、黒猫と一緒に、こっちへ来るってか?!」 それがハッタリでないことを示すつもりなのか、文末には、『拙者は京介氏の居場所を突き止めておりまする』の文言 とともに、俺が世話になっている下宿屋の住所が記載されていて、おまけに、地図のURLまで貼ってあった。 「……そうだよな。沙織が超が付くほどのセレブだってのを忘れてたぜ……」 父親が議員であるという特殊な事情があったにせよ、あやせのような小娘でも、俺の居場所を突き止めたんだ。 大きなマンションに一人住まいを許され、自由に扱える資金も権限も十分にありそうな沙織ならば、あやせ以上に 様々な手段で、俺のメアドや居場所を突き止めることが出来るだろう。 俺がメールを読み終えるのを待っていたかのように、机の上に置いておいた俺の携帯が着信音を奏でていた。 確認するまでもない。相手は沙織だろう。さっきの開封通知で、俺がメールを読んだことを知った上での電話に違い ない。 「俺だ、京介だ」 『おお! 京介氏。お久しぶりでござる。お元気そうですな』 この独特のヘンテコな言葉遣い。無駄に感嘆詞に力を入れるイントネーション。まさしく沙織だった。 「まぁ、元気っちゃ、元気かな……。なんとかかんとか、やってこれているよ」 本当は八方塞がり一歩手前といった感じだが、それを正直に告げたところで、沙織を無駄に心配させるだけだ。 何の益にもなりゃしない。 『それは何よりでござる。いや、拙者も黒猫氏も心配しておりましたぞ。本当に、ある日突然に、拙者たちの前から、かき 消すように居なくなられて……。きりりん氏も、京介氏の行く先はとんとご存じない。ご両親に京介氏のことをお伺いし ても、いっこうに埒があかない。いやいや、拙者も黒猫氏も、京介氏がいかがなされたのか、本当に危惧しておりました』 「いや、沙織にも、黒猫にも、心配をかけてすまなかった。だが、事情が事情だけに、行き先をお前や黒猫に告げるわけに はいかなかったんだ」 『その事情は、拙者も存じておるつもりです。ご両親が、京介氏ときりりん氏との関係を危惧されたからというのは、 拙者のみならず、黒猫氏も存じておりまする』 「そうか……」 俺がこんなところに隠遁させられている事情は、赤城もあやせも分かっていたんだ。沙織や黒猫だって気付くだろう。 『不躾ながら、事件の発端は、拙者、昨年夏の御鏡氏の登場と理解しておりますが、宜しいですか?』 「うん……。まぁ、そんなところなんだよ」 俺と同い年の男でありながら、エタナーの女社長のお抱えファッションモデル兼デザイナーで、常人離れした美貌の 持ち主。 その御鏡が、その女社長の工作とはいえ、桐乃の彼氏として俺の実家に出現したのが昨年の夏だった。 忘れようったって、忘れられない事件だったぜ。 『その御鏡氏に対して、京介氏は敵意を剥き出しにされた。それを京介氏ときりりん氏のお母上が、てっきり京介氏が 実の妹であるきりりん氏に執着されていると勘違いされたというのが、宜しくなかったんでござろう……』 「そう、最初は、お袋の勘違いだったんだよ……」 『でも、その事件がきっかけとなって、きりりん氏の本心をご両親も知るところとなった……。その結果、京介氏は、 そちらへ隔離……、いや、これはちょっと不謹慎でござった……』 「いや、本当の事だから、気にしてねぇよ。実際、桐乃から隔離するために、実家から放逐されているようなもんだからな」 それどころか、奨学金の申請と引き換えに、仕送りが減額されるんだぜ。 もう、親、特にお袋からは半ば見捨てられているに等しいよな。 『そんな京介氏を、拙者たちは励ましたいと思っておりまして。近日中、出来れば、次の日曜日あたりにでも、拙者と黒猫 氏とで、お邪魔させていただければと思い、先ほどはメール、そして今はこうして電話にてお伺いしておる次第でござる』 「そ、それは、まぁ、ありがたいけどよ……」 俺だって、正直、沙織や黒猫には会いたい。しかし、この下宿屋に押しかけられるのは、御免被りたい。あやせの時は、 どうにか『妹』ということでごまかせたが、沙織や黒猫が来た時まで、同じ嘘が通用するはずがないし、他にうまい言い 訳も思いつかないからな。それに、まさかとは思うが、桐乃がこの件に関わって居るのかどうかが気になる。 だが、聡明な沙織は、そんな俺の懸念を鋭く見抜いてくれたらしい。 『ご心配には、及びませぬぞ。先ほどのメールにしたためた京介氏の住所は、黒猫氏にも、きりりん氏にもお知らせする ことはござらん。ただ、拙者が本気で京介氏にお会いしたいという決意の現れを示すために、僭越ながら貴殿の居場 所を調べ、それを先ほどのメールに記載させていただいた次第でござる』 「じゃ、じゃあ、こっちの下宿には来ないんだな? それと、桐乃は、今回は関わってこないのか?」 『京介氏の下宿の住所は、黒猫氏にも秘密にさせていただく以上、拙者も京介氏の下宿にお邪魔するわけには参りま せぬ。それに、今回そちらへお邪魔するのは、黒猫氏と拙者のみでござる。きりりん氏も、おそらくは京介氏に会いたい とは思いまするが、今はまだ、その時期ではござらん』 「そ、そうか……。そうしてもらえるなら、助かるよ」 状況を的確に判断したマネージメントには恐れ入る。これで、俺よりも年下なんだからな。末は、立派な実業家になり そうだ。 『それでは、京介氏。今度の日曜日ということで宜しければ、当日は、午前中にそちらの中央駅に到着するように致しと うござる。先ほど、黒猫氏とも相談致しましたが、朝八時頃に東京発の新幹線に乗れば、昼前には、そちらの中央駅に 到着するでござろう。しからば、中央駅前にあるアニメショップを見てから三人で昼食をして、その後は、市内を見物し ながら互いの近況報告を含めたおしゃべりということでいかがでござろうか?』 「いいんじゃねぇか、俺も、みんなと久しぶりに会いたいからな」 しかし、駅前のアニメショップって、アキバにある店の小規模な支店なんだけどな。 見てもしょうがないと思うが、まぁいいか。 『おお、それはそれは……。では、黒猫氏ともスケジュールの詳細を詰めて、後日、改めてご連絡申し上げる』 「いや、そんなにしゃちほこ張らなくてもいいよ。当日、新幹線の中からでも到着一時間前くらいに電話かメールでもしてくれ。そうしたら、中央駅の改札まで迎えに行く」 『では、そう致しましょうぞ。それでは、今度の日曜日は、宜しくでござる』 「ああ、こちらこそ、宜しく頼むぜ。だがな……」 『おや、京介氏。何か、気になることが未だおありでござったか?』 「いや、念のために訊いておくが、俺の居場所をどうやって突き止めたんだ? それに、俺のパソコンのメアドとかも、 どうやったら分かったんだ?」 電話の向こうでは、沙織がからからと笑っていた。 『京介氏、それを訊くのは野暮というものでござろう。拙者、色々と人脈もあれば、年齢不相応な権限も持ち合わせて おる次第にござる。京介氏の居場所を知るためとあらば、それらを行使することもやぶさかではござらんと、ご理解くだ され』 「そうだったな……。お前だったら、俺の居場所を突き止められるだろうな」 そうはいっても、個人情報保護法があるんだから、簡単じゃねぇよな。沙織だって、それなりに本気で俺のことを心配 してくれているから、多少の無理は承知の上で、彼女が言う『人脈』とか『権限』とかを行使したんだろう。 沙織が具体的にどんなことをやったのか、下々の俺には分からねぇけどよ。 『では、拙者の用向きは以上でござる。拙者も黒猫氏も、当日は京介氏にお会いできることを楽しみしておりまするぞ』 「俺もだ。当日は宜しく頼むぜ」 通話を終えた俺は、自身の携帯端末の液晶画面に暫し見入っていた。 画面には、沙織の携帯端末の番号と通話時間が、角張った無機的なフォントで表示されている。 見たか、お袋よ。 あんたが、俺をこの地に追いやり、俺のことを半ば見捨てようとも、こうして俺のことを気に掛けてくれる奴は居るんだぜ。 あんたが、俺の居場所をどんなに秘匿しても、そいつらは、あやせや沙織は、おそらくは合法非合法の手段を問わず に、こうして俺の居場所を突き止めてくるんだ。 ざまぁ見やがれ。 「落ち込んでいたけどよ……、ちったぁ元気が出てきたのかもな……」 誰も彼もから見捨てられては、人は生きてはいけない。 だが、遠くからでも、誰かが想ってくれるのなら、それが生きる上での励みとなるのだろう。 そんなことを思いながら、俺は、本来すべきであった判例の検索に取りかかった。 それが一段落しそうな頃合いに、下宿の女主人が、階下から俺を呼ばわった。夕餉の時間なのだ。 俺は、ダウンロードしたPDFファイルに適当なファイル名を付けて保存すると、飯を食うべく、のそのそと階下の 八畳間へと向かった。
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http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288544881/437-444 学校から家に帰ると、桐乃とあやせがリビングにいた。 2人は学校帰りらしく制服だ。そういえば今日は午前で授業が終わりとか言ってたな…… 一昨日、あやせ(水色パンツ)を見たばかりなのに、今日もあやせ(制服)を見られるとは、俺の普段の行いがいいからだろう。 しかし、一昨日、玄関であやせのパンツを見、頭を蹴り飛ばされた……いや、頭を蹴り飛ばされたからあやせのパンツが見えたのか? とくにかく、その前後の記憶がないのだが、まあ、あやせのパンツの前では些細なことなのでよしとしよう。 なんか思い出さないほうがいい気がするし! 「お茶」 しかしだよ、学校から帰ってきて、爽やかに妹の友達に挨拶するお兄様への第一声がコレとはどういう事ですか、妹様。 おにーさんは召使いとか奴隷とかではないのだぞ、妹様よ。むしろ、帰ってきたお兄様に石田三成の如く三杯とはとは言わないが、 お茶を一杯差し出すぐらいの優しさとかあったら、お兄さんはあと一週間は無補給で戦えるのですよ? 「温かいのか? 冷たいのか?」 「冷たいのー」 いや、これはあくまであやせをもてなす為であって、決して桐乃に屈しているワケではないからね、そこのところよろしく。 「お兄さん、あぶない!」 はっ! ラブリーマイエンジェルあやせたんが俺を呼んでいる!! なんだって、あやせたん! 俺はキミの為なら死ねる! 赤ちゃんはどこからくるのかも答えられる! ……て、アブナイって? あれ>なんか床近くね? 「うおっと!?」 がっしゃん 「……何やってるのよ兄貴。ほんっと使えないわね」 俺は家の中だというのに、ズブ濡れになりました。 しかし、お茶請けのどら焼き×3が大地にセカンドインパクトするのを防いだ事は、もう少し誉めてくれていいんじゃないスかね? 「口に咥えてまでどら焼き守るとか、どんだけ食い意地はってるのよ、情けなー」 「大丈夫ですか、お兄さん」 ああ、あやせたんの優しさは五臓六腑に染み渡るぜぇ…… 「っていうかアンタの唾液がついたどら焼きなんて食べられるわけないし?」 「ちゃんとお前達の分は右手と左手に確保してあるっての。俺の分を俺が食べて何が悪い!」 「お兄さん、そのままだと風邪をひきますよ」 あやせ、何て良い子!俺のどら焼きあげちゃうよ? 「こっちはあたしたちが片づけてあげるから、さっさと着替えてシャワー浴びてきなさいよ」 「え? いいのか?」 「アンタみたいな無能に頼んだ私の責任だしね」 ……お前に優しさを期待した俺がバカだったよ。 つーかさ、俺がコケたのって、何かに躓いたからのような気がするんだけどさ。 いや、まさか、桐乃がいくらクソ生意気な妹様でも、そんな意地悪はしないだろう。 俺の気のせいだろうな。まあ、人生塞翁が馬、生あやせの眼福の後には、お茶被りの不幸ぐらいあるだろう。 「はっくしょん!」 ……俺は桐乃にどら焼きを預けると、浴室に向かった。 失敗だった。まさか兄貴がコケてしまうなんて。 ちょっとした足と足を触れあいのつもりだったのに。 だって、友達の前でイチャイチャするワケにはいかないじゃん。 だからこっそり足組みしあおうって考えたのに、あのバカ兄貴は何にも考えずに突っ込んできて、こんな有様だよ! でも兄貴に怪我がなくて良かった。もし兄貴がコップで指でも切っていたら、 あたしは常時兄貴の出血を舐めるというご褒…超メンドイ看病をしなくちゃならないところだった。 でも、なんていうの?人生塞翁が馬っていうヤツかな、これ。あたしはこの諺キライだけどね。幸せは自分で掴まないと! だからね、きっと頑張ってるあたしに神様がご褒美くれたんだと思う。 だって、今、この瞬間、生兄パンを洗濯カゴからこっそり奪うチャンス! さらに、私の目の前には兄貴が囓ったどら焼きまである! いわゆるWチャンスってやつ!! (問題は、目の前にあやせがいるってことか……) 兄貴はシャワーを浴びているから、パンツをコッソリ盗もうが、どら焼きを入れ替えようが、気がつかない。 あとはどうやってあやせを出し抜くか……これが問題だ。 最悪の場合、どちらか一つは断念しなきゃならないと思う。 「桐乃」 「な、何? あやせ?」 「何か、拭くものないかな?」 「い、いいよ。あやせはお客さんなんだから、あたしがやるって」 「でも、2人でやったほうが早く終わるんじゃないかな?」 「いいってば! あやせはゆっくりしてて!」 「そう? じゃあ桐乃、それ、私がテーブルに置いておくね」 と、あやせはどら焼きを受け取る構えを見せた。 あたしは何の疑問もなく、兄どら焼きをあやせに渡した…… って、ちょっと待って!? あやせはテーブルにどら焼きを置く時、あたしの渡した時とは180°皿を回転させておいた。 台所側――つまりあたしに一番近く。「ついうっかり兄貴の囓ったどら焼きを食べちゃった。キモッ」 となっても不自然じゃない配置に置かれていた兄どら焼きが、逆に窓側――あやせに一番近くに置かれている。 偶々? ううん、それにしてはあまりにも不自然だった。 あたしはあやせの顔を伺う。けど、あやせはいつもの通り、にこにこしてあたしを見ている。 とにかく、兄どら焼きの入手難易度が跳ね上がったのは確かね。ここは確実に兄パンをゲットしておくべきか…… 「桐乃、その……私、お手洗い……」 「え? ああ、場所はもう知ってるでしょ。あの変態も今は動けないし、安心していってきていいよ」 「桐乃~、それは流石にお兄さんが可哀想だよ。桐乃の中でお兄さんはどうなってるの?」 あやせが顔を綻ばせた。 親友の、あやせの笑顔はとってもイイ。普段ならそれだけであたしも嬉しくなる。 でも今のあたしは別の理由で、小躍りしたいほど嬉しかった。 あやせがトイレに言っている間に、お皿を回転させて兄どら焼きをゲットするチャンスキター!! 「ゆ、ゆっくりしてきてね!」 「な、何よそれ」 「え? そ、その……あたしの家を自分の家だと思って欲しいなーって。 ほら、よく言うじゃん? トイレって一番安心できる場所だって。だからあたしの家のトイレでゆっくりしていってね!なんてさ!」 「もう~桐乃ってば!」 ふふ……桐乃、私の作戦にみごとに引っ掛かったみたい。 桐乃は頭はいいけど、予想外の突発的事態には弱い。 だから二重三重の罠にも簡単に嵌ってくれた。 お兄さんのどら焼き、視点が常にそれに向いていたことから、桐乃がそれを狙っていたのはスグに読めた。 正直に言うと、このどら焼きは私にも相当魅力的だ。だってお兄さんの唾液が付いてるんだから。 これを咥えれば、間接キスになる。お兄さんとの間接キスなんて、私はもうそれだけで三日は白い御飯で過ごせる自信がある。 でも、事態はさらに急転した。そう、桐乃の趣味が発覚した後に、お兄さんが変態だと発覚した時のように。 今、お兄さんはシャワーを浴びている。そして洗濯カゴにはお兄さんの脱ぎたてのパンツがある。 ……何が何でも手に入れなくては。 お兄さんのパンツに比べたら、どら焼きは月とスッポン、桐乃(全裸)と加奈子(全裸)のだ。 ただしこれは私がお兄さんの妹でないから……つまりお兄さんと一緒に暮らしている桐乃にとって お兄さんのパンツは入手する機会が既に何度もあり、それだけに希少価値でいえばどら焼きと等価値、あるいはどら焼きの方が上という可能性がある。 桐乃の反応からみて、この予測は6割5分の確立で当たっていると思う。 けれども私は違う。私にお兄さんのパンツ(試着済み)を手に入れる機会は、殆どない。 お兄さんが普通の人間として更正できる確立の次ぐらいに難しい。 この私と桐乃の意識の差こそが、桐乃を出し抜いてお兄さんのパンツを手に入れる勝因になるはず…… 私は桐乃からどら焼きを預かり、私がお兄さんどら焼きを手に入れられるフォーメーションを展開した。 ふふ…動揺しているね、桐乃。そうよ、このままだとお兄さんとの間接キスは私のもの…… でもね、ここで桐乃にチャンスをあげる。 私がお手洗いに行きたいという意思を示すと、桐乃は諸手を挙げて賛成してくれた。 おそらく桐乃は私がお手洗いに席を外している間に、どら焼きの配置を換える筈だ。 でもその時間、私はこの家を自由に動くことができる。つまりお兄さんのパンツをゲットすることができる。 その事に桐乃は気づいていない。 ふふふ……ごめんね、桐乃。お兄さんのパンツは私が貰うから。 私は浴室へ繋がるドアに手をかけ…… 「あやせ!」 あやせはあたしの大切な親友だ。コミケの一件以来、隠し事だってしていない、ホンモノの親友だ。 だけど、どうしても、胸騒ぎが収まらなかった。 地味子や邪気眼厨二病女から感じるのと同じような、胸のざわめきをあやせに感じて 私はあやせを追って、リビングの扉を開けた。 廊下には、あやせがいた。 トイレじゃなく、浴室のドアノブに手を掛けたあやせが。 「あ、あやせ……そこ、浴室だよ」 「え? そ、そうだったんだ。私、間違えちゃった。桐乃の家に来たの久々だったから」 嘘。 だって一昨日きたばかりでしょ! それに、その扉の向こうから兄貴が浴びているシャワーの音が聞こえてるじゃん。 シャワーの音が聞こえるトイレがあったら、あたしが見てみたいよ! 「あやせ……」 「な、何?」 ……多分、あやせの狙いはあたしと同じだ。 クンカーとしての直感が、そう告げていた。 そんなあたしに気づいたのか、あやせも愛想笑いを辞めた。 あたしのあやせの間に、白い火花が散った。「ああ、ア●ロ……刻がみえる……」どこかで沙織が叫んだ気がした。 「もう、あやせってば忘れっぽいんだからさ。しっかりものなのに、時々そんなところがあるのが あやせの萌えポイントなのは知ってるけどね~。ほら、トイレはこっちだよ」 ふ…… あやせ、トイレに一度入ってしまえば、すぐには出られないよ。言い出したのはそっちなんだからね。 その隙にあたしは浴室から兄パンを奪い、リビングに戻る。 大丈夫、いつも通りやれば1分もかからない。アニメのスポンサー提供程の時間で終わる。 どら焼きのポジションも先手を取ることが可能。パーフェクト! エロゲーで一発ハーレムエンド攻略をしたキ・ブ・ン あやせの瞳には、彼女が初めて見るあたしの満面の笑みが映っている筈だ。 この時あたしは、まだあやせを侮っていたんだと思う。 「桐乃……最近寒いから、家の中だからってブラウスでいると風邪ひくよ?」 やられた…… 私の作戦は完璧だったと思う。ただ、私が見抜けなかったことがあったとすれば それは桐乃が桐乃であるが故の…… つまり実のお兄さんに恋してる年月=年齢であるが故の、お兄さんに好意を抱く女性への嗅覚!! そしてお兄さんをくんかしたい者が身体の端から滲み出る欲望! 鮭が本能で生まれた川に戻るように、桐乃も本能で私がお兄さんのパンツを手に入れようとしたことを見抜いたんだ! すごい…すごいよ、桐乃。やっぱり桐乃はすごい! 私が尊敬する一番の親友だよ! でもね……だからこそ、私は諦めないよ。 桐乃がどんなときでも諦めない人だから、エロゲーと私、両方とるのが生き方な人だから そういう桐乃を尊敬しているから、私だって最後までお兄さんのパンツを諦めない! 桐乃、今自分がどんな格好をしているか、わかってる? そう、制服の上は部屋に脱いできて、ブラウスだけ。 桐乃はお兄さんのパンツを浴槽から取るつもりだけど、その後はどうするの? いつもだったら二階の自分の部屋に確保するんでしょうけど、今日はそれができないよね。 だから隠し持つしかない。でもお兄さんのパンツを仕舞えるだけのポケットがないでしょう? スカートやブラウスのポケットじゃ、入りきらないものね。 桐乃、貴方はすでに負けていたのよ! 真のクンカーとはいつ、いかなる事態にも即座にハンティングを開始できるよう、備えている者! 桐乃……私はどら焼きまで奪うつもりはないの。だから今回は、お兄さんのパンツは諦めて!! 「そうだね。確かに、足がスースーして寒いなーって思ってたんだ。 何か……"穿くもの"があるといいんだけどねー。スパッツみたいなさ。パンツでもいいけど」 桐乃は自信満々に、胸を張って答えた。 その意味に、私は数秒して気づく。 "穿く" ……ッ!! その手があった…… "お兄さんのパンツを仕舞うことができないなら穿けばいいじゃない" 桐乃は天才だ。司馬恵とか、マリーアントワネット並の発想を、いとも簡単に導き出した。 ううん、導き出したんじゃない。それが当たり前の選択肢だったんだ。 仕舞うなんて邪道。お兄さんのパンツは穿くもの……私と桐乃にはクンカーとしての経験値に、レベルに、圧倒的な差があったんだ。 勝った―― あたしは思わずガッツポーズをしようとして、押さえた。 気分はNと敵対した●神月の気分だ。勝利宣言を押さえきれない。 まだだ……あやせがトイレに入って、あたしが浴室で兄パンを手にしたら、手にしたらガッツポーズをしよう。 それまでは我慢だ。 「どうしたの、あやせ? はやくトイレにいかないと、お漏らししちゃうよ?」 あやせ……ゴメンね、そんなに肩を震わせて……あたしは親友になんてことをしてしまったんだろう。 でも、でも兄貴のパンツだけは、兄貴のパンツだけは他の誰にも嗅がせたくない! 兄貴のパンツを嗅ぐことができるのは、妹だけに与えられた特権なんだからっ! 「お漏らし……ねぇ、桐乃…… 私が…お漏らし、しちゃったら……お風呂、貸してくれる?」 「え…っ……」 い、今、何て? あやせは何て言ったの? 「黙ってくれ、なんて言わないから……でも、せめて、お風呂場ぐらいは貸してくれるよね? お漏らししたままの身体とショーツで、出ていけなんて……言わないよね?」 あやせ……なんて恐ろしい子!! 侵入者として浴室に入るのではなく、入浴者として堂々と入る…… 家族ならともかく、お客さんとしてはハードルが高すぎるその行為を そんな方法でクリアするなんて!! あやせマジ策士!! 待って、考えるの……考えるのよ桐乃! あやせの提案をどうやって断るのか、あやせの親友の立場として考えるの! 時間はそんなに無い。時間を与えてしまえば、あやせは確実に漏らす! あやせが漏らせば、後はあやせの言った通りになっちゃう。 いや、あやせがお漏らしした所を兄貴が目撃したら……? ダメ! あの変態兄貴が、あやせみたいな清純少女がお漏らしして羞恥に震えている姿を見て 欲情しないなんてこと、万が一にもありえない!! ……そ、そうか。この作戦はあたしを出し抜くだけじゃなく、兄貴まで狙った作戦なんだ! そうまでして……自分がお漏らしした姿を見せてまで、兄貴を誘惑するなんて…… あやせ、アンタの覚悟、確かに伝わったよ…… だから、あたしも覚悟を決める! 「あやせ、実を言うとね…… あたしも漏れそうなんだ。だから、はやくトイレいってくれないかな?」 ――カウンター!?! そうか、この方法は私だけが使える方法じゃ無かった! お漏らしをするだけなら条件は五分と五分 ううん、むしろ後発な桐乃の方が有利! もしお兄さんに2人ともお漏らしをしている姿を見られたとして 桐乃は私がはやくお手洗いにいかないから、という理由でお兄さんの同情を引ける…… そうか、その算段があったから、お兄さんの前ではプライドが高い桐乃が、この作戦に乗ったんだ。 穏やかなデレを持ちながら、激しいツンによって目覚めた……超クンカーの姫・桐乃…… 嗅がれる……お兄さんは確実に嗅がれてしまいますよ…… 私は項垂れ、白旗を桐乃に掲げた。 「あやせ……アンタは強敵と書いてトモだった……」 「桐乃、次は負けないよ。私はまだ登りはじめたばかりだかね、このくんか坂を」 私と桐乃はどちらが先という訳でもなく、自然とお互いに手を差し出し、握った。 「あやせぇぇ!!」 「桐乃ぉぉぉ!!」 感極まった私たちはお互いの肩を抱き寄せあって、健闘を称え合った。 桐乃はその場でショーツを脱ぐと、私へと差し出した。 私もスカートの中に手を入れ、ショーツを脱ぐと、桐乃に差し出した。 ガチャ ふー、さっぱりしたぜぇ 桐乃達はまだリビングに居んのかな? アイツ、おれのドラ焼き食ってねーだろな。 「はあ? アンタの代わりにかたづけてやったんだから、正統報酬でしょうが。 っていうかむしろドラ焼き一個じゃ足りないぐらいよ。感謝しなさいよね』 などといって、既にアイツの胃の中 うむむ…有り得る。 こうしてはいられん!いそいでどら焼きを救出しなければ! 俺は我慢弱い男なのだーーー!! ガチャ 「あやせぇぇ!!」 「桐乃ぉぉぉ!!」 い、いま起こったことをありのままに話すぜ 廊下にでたら、花も恥じらう女子中学生(超美少女)が笑顔でお互いのショーツを交換していた な、何をいってるかわかんねーと思うが、俺にもさっぱり訳がわかんねぇ…… これなんてエロゲ?とか、はいはい民のため民のためとか そんなチャチなもんじゃねぇ。もっと得体の知れない何かを味わっ… 「「死ねエエエェェエエェェエエェェ!!!」」 ま、まて、お前ら、ノーパンでハイキック×2は……ペスタァ!? 俺の記憶が美少女たちの×××を覚えてる筈がない おわり
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http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1296227693/55-60 『今すぐ来て。困ったことになっちゃった! 場所は―――』 こんな切羽詰まった様子の電話が桐乃からかかってきた。 どうしたんだ一体? とにかく、電話で言われた場所に俺は急いだ。 アイツがこの俺に電話を、それもあんな様子でかけてくるなんてタダ事じゃない。 言われた場所に着いた俺は桐乃を探した。 どこだ? 桐乃のあの様子、きっと何かあったに違いない。 ―――いたッ!! 桐乃―――と言おうとした瞬間、 「お兄ちゃん、来てくれてありがとう!」 お、お兄ちゃん? 誰だオマエ? ニセ者だろ! 本物の桐乃を返せ!! 怪訝な顔をしていると桐乃は俺の右腕に腕を絡ませて引っ張っていく。 「すみません。来てくれました!」 そう言って桐乃は大人達に頭を下げて回った。 なんだこの人たちは? 撮影機材があるから、カメラマンと‥‥‥メイクのスタッフか? ということは此処は撮影現場ってことか。桐乃の仕事場だな。 で‥‥‥、なんだって俺が呼び出されたんだ? 「キミが桐乃ちゃんのお兄さんか。噂は聞いているよ。 背は低くもなく、かといって高すぎるわけでもなく、スリムだし悪くないね」 はぁ―――。 スタッフの人が言った言葉に力無く頷く俺がいた。 「撮影に来てくれるはずのモデルさんが来られなくなっちゃったのよね。 偶然ロケが地元だったから、アンタに代わりをやってもらおうってワケ。 せっかくスタッフさんも集まっているのに時間が勿体ないじゃん?」 なんだそれ。それで俺を呼び出したのかよ。しかもあんな電話で。 文句を言おうと桐乃の顔を睨むと、 「ごめんなさい。あんな不安な感じの電話で‥‥‥ こうでもしなきゃすぐには来てくれないと思ったから」 桐乃は俯きながら謝った。 チクショウ、こんな素直に謝られたら、コイツの頼みを聞くしか無いだろ! 「それで? 俺は何をすればいいんだ?」 「飲み込み悪いわね。つまり来られなくなったモデルさんの代わりに アンタがアタシと一緒に撮影してもらうってことなのよ」 げっ! 俺、モデルデビューっすか? 経験なんてねえし、どうすりゃいいんだよ? 「アタシがリードするから平気。アンタはただ突っ立っていればいいの!」 「でも顔が雑誌に出るんだろ?」 「アンタのしょぼくれた顔なんて雑誌に載せられないじゃん? あくまでも顔出しNGってことでアンタを撮ってもらうことになっているから」 いや、自分を美形なんて思ってはないけど、しょぼくれた顔って‥‥‥ 「それと言っておくケド、アタシ現場じゃ妹キャラとして通っているから。 そういうキャラとして今日はアンタと一緒に撮影するかんね。 こんな超かわゆいアタシが妹だってことに感謝しなさいよね」 あの、スタッフさんが居る前との落差が激しいんですけど。 本当にコイツ、猫を被ってやがんのな。 「あ、それと‥‥‥今日の撮影は、恋人同士って設定だかんね」 ‥‥‥‥マジすか? 俺は、来られなくなったという恋人役のモデルが着るはずだった衣装を纏った。 スタイリストさんによると、偶然にも体型がピッタリだという。 実際着心地も悪くない。 「へー、まさに馬子にも衣装じゃん」 ワゴン車のドアを開けて乗り込んできた桐乃の第一声を拝聴する俺。 「なんか緊張してきたな」 「ニワカなんだから、緊張する必要ないじゃん」 「でもプロの仕事の現場なんだろ。素人とはいえ全力出すのが礼儀ってもんだろ」 「ふーん。意外とわかってんじゃん。じゃあ早口言葉でもする?」 「なんで?」 「緊張を解すには、早口言葉が効くのよ。あやせだってやってるし」 本当かよ? まあ、藁にも縋りたい今は、コイツの言葉を疑っている暇はない。 「そんじゃいくね」 「おう」 「ばすがすばくはつ ぶすばすがいど」 「なんだよそれ?」 「いいから、さっさと言う」 なんつー早口言葉だよ。 「ぼうずがだいぶじょうぶなびょうぶにじょうずにぼうずのえをかいた」 「これは普通だな」 「いちいち口を挟まない!」 クソ、意外と言いにくいな。これで緊張解けるのか? 「となりのたけやぶにたけたてかけたのは たけたつかわいかったから たけたてかけたのさ」 「‥‥‥なんかおかしくね?」 「ドコがよッ!! 答次第によっちゃブッ殺すよ!!!」 ひいっ!! ちょいと疑問を挟んだだけなのにコイツ、ブチ切れやがった。 今のどこに地雷があったんだよ? そんなこんなもあって緊張も解けてきたようだ。早口言葉が効いたかな。 「いいねー。今日の桐乃ちゃん、いつも以上に可愛いね!」 カメラマンが桐乃を褒めちぎりながらシャッターボタンを押している。 俺の目から見ても、今日の桐乃は確かに可愛い、というかとても嬉しそうだ。 桐乃は変幻自在な表情で、俺の腕にしがみついたり、俺の肩越しにカメラのレンズを 覗き込むような仕草をしている。 コイツのプロフェッショナルな姿、悪くねえな。 「凄いお兄さん効果だね! これからもお兄さんと一緒に撮る?」 いやコイツ、猫を被っているだけっすから。あくまでも仕事重視なヤツなもんで。 「ちょっとお兄さん、顔が緊張しているかな?」 そりゃコイツとこんな格好で、しかも恋人同士役なんてマジ緊張するし。 「もうお兄ちゃん、もう少しリラックスしてよね♪」 うへえぇー、キモチわり―――。 ヤバい、感情が顔に出そうだ。 顔出し無しって約束だけど、ここは桐乃のためにも耐えなければ。 「今日はありがとうございました。お疲れさまです」 スタッフの挨拶で撮影は終わり、俺は解放された。 「ふふん。まあまあじゃん? 今日はあくまでも緊急事態だったんだから、これは最初で最後だかんね」 へーへー。お疲れさまでした。 まあ俺も、コイツのプロ姿を間近で見ることができたし、 珍しい体験もできたから、今日の一日は決して悪くねえと思ったよ。 「お届けものです」 宅配便を受け取った俺は荷物パッケージのラベルを読んだ。 メディアスキー・ワークスから親父宛‥‥‥? 「お袋、さっき親父宛に何か来ていたよ」 「ああ、メディアスキー・ワークスの本ね」 「それって桐乃の小説を出版した会社だろ? 親父、小説でも買ったの?」 「小説じゃなくて、桐乃がモデルで載っているファッション雑誌よ。 お父さん、通販で桐乃が載った雑誌を毎号買っているのよ」 へー。親バカとおもっていたが、やはりね。 ‥‥‥それにしても、何か気になるな。何だろう? 「京介、話がある」 大地を揺るがすような声に振り向くと親父殿が居た。 「これは一体どういうことだ?」 親父がファッション雑誌の1ページを開いて俺に突き付けた。 「ファッション雑誌‥‥‥だよな?」 「そんなことではない。内容を見ろ」 うっ! 俺がモデルの代役をしたときの写真か‥‥‥! でも約束通り俺の顔は写ってないし、親父は何を問題にしているんだ? 「ここを見ろ!」 親父が指差した先を見ると‥‥‥ 「なになに、『プロフィール』!? 『高坂桐乃 1997年生まれ。千葉県出身。中学三年生。陸上部所属』」 これが一体どうしたというのだ? と親父の顔を覗いた。 「最後まで読め!」 えーっと‥‥‥ 「『今日は大好きなお兄ちゃんと一緒に写真を撮ってもらいました♪(笑)』」 ってオイ!! せっかく顔出し無しだというのに、台無しじゃねえか! 桐乃のヤツ!! 「桐乃と一緒に写っているこの男はお前なのか?」 「いや、それは事情があって‥‥‥」 「どんな事情だ?」 「実は―――」 「なるほど。しかしお前は未成年だ。そんなことをするなら親に連絡すべきだ」 超正論を言う親父に反論できるはずもない。一発二発殴られることを覚悟した。 「だが、今度だけは大目に見よう」 本当かよ? と怪訝混じりな俺の表情を察したのか親父はこう言った。 「これだけ嬉しそうな娘の顔を見せられて、怒るわけにはいくまい」 『モデル・京介』 【了】
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413 : ◆36m41V4qpU [sage]: 2013/05/06(月) 13 14 "絶対防衛あやせたん(仮)" ゴールデンウィークも真っ最中 「あれ?あやせたん、来てたの?」 「京介、おかえりなさい♪」 野暮用を済ませて、徹夜明けに自分のアパートに帰ると マイ・ラブリー・セレスティアル・エンジェル・あやせたんが ベットの上にちょこんと待っていた。 「今日約束してたっけ?」 俺はこの連休中の期間、色々(本当に色々)かなり忙しくて 遊ぶ時間はおろか、何時に帰宅出来るかの時間すら決まらず、 彼女は彼女で仕事(あやせたんは超A級モデルである)が入っていて お互いに予定のタイミングが合わないと思っていたのだが――― 「いいえ………でも来ちゃった♪」 「お、おう」 「だってぇ、早くぅ………京介くんに会いたかったから♪」 「アハハ………あやせたん、面白れぇな~ 例のラブタッチの台詞かよ(笑)」 「ブー、本当にすごく――すごく、会いたいから待ってたのに ―――笑うなら、迷惑ならすぐに帰ちゃうぞ?」 「め、迷惑じゃないに決まってるんだろっ!」 あやせは花柄(レース)ぽい―――カチューシャっぽい(ヘアバンド)と それと、お揃いである総レースのワンピースを着ていた。 俺の希望? ―――と言うよりも、前に色々バトルがあった時の話の流れで あやせは、俺の妹の影響から俺の好みの服装やファッションへと 最近かなりイメチェンしていた。 ところで、彼女がお洒落した時に、彼氏がやる行動と言えば?――― 「今日のあやせ(は)………今日もあやせは可愛いなぁ 凄く似合ってるよ」 「ふふ………有り難う御座います♪」 「なぁ、あやせ―――」 ―――正解は 彼女のお洒落な服を大いに褒め、その褒めた彼女の服を 一刻も早く脱がそうとするという、大いなる矛盾(パラドックス)な行動。 でも彼氏・彼女って大体こういうものであり ―――事実、このパターンで拒否られた記憶は俺の中には無い。 あやせは仕事の時以外は俺がプレゼントした例の"チョーカー"を 身に着けてくれてるが、今日は格好が格好なだけに首周りじゃなく ブレスレットの様にして左手首に巻いていた。 俺はあやせの右隣に移動してベットに腰掛け チョーカーのあるあやせの左手を、自分の右手で優しく捉まえると ベットに座ったまま あやせの正面の方に向き直り、 左手でゆっくりとあやせの横髪を撫でながら、 いつもみたくキスしようとした ―――が 「ダメ」 あやせは唯一空いていた右手で俺の口撃(キス)を防いだ。 「な、何で?」 「何で・でもダメ」 「そ、そうか………俺さ、徹夜明けだからちょっと寝るわ」 「あーあ、なるほど………エッチなコト出来ないと分かると せっかく遊びに来た可愛い彼女を放置して、 呑気に、すやすやとお休みになるってことですね?」 「………いや、そういうわけでは」 「もしかしたら………二度と起きれないなんてことも。 何故だか分かりませんが、わたし悪い予感がする」 「き、奇遇だな―――そして危惧だな、これ。 実は俺もあやせと同じ予感がしたんだ。 それに寝るなんて………う、嘘に決まってるじゃん この俺がおまえを放置で寝るわけがないだろ?」 「ふ~ん………どうだか」 「でもさ、本当に眠いのは嘘じゃないんだけど」 「だったら、少し寝てても良いです」 「そっか、うんならお言葉に甘えて、ちょっとだけ寝よう―――」 「わたし、お外の撮影で少し汗かいちゃったからお風呂入ろうかな」 「ああ………良いぜ。」 あやせは何度か(も)うちの風呂には入ってるから 要領は大体分かってる筈だ。 そして、この後続く言葉は 『―――お風呂覗いたら、針千本飲ますから(殺)!』 である あやせの恥じらいと言うか羞恥心と言うか 絶対に許してくれない、封印されたプレイ?がいくつか有った。 ―――風呂に一緒に入るもその中の一つ。 「ねぇ、せっかくだから一緒にお風呂………入りません?」 「もちろん、覗かねぇって………………………え?」 「だから、お・風・呂・」 「う、うそ?」 「別にイヤなら………別に無理にとは言わないけど」 「いや、せ、せっかくだから入ろう」 「あ! その前に、一つだけお願い―――」 「まさか、目隠ししろ………とか殺生なことを言わないだろうな?」 「ピンポーン♪ 正解………だってやっぱり恥ずかしいし」 「そんなの駄目だろ! 風呂で目隠しするとかの方がよっぽど変態プレイみたいだろ?」 我ながら、滑稽なほど必死にあやせを説得する俺 「い、良いよ………目隠しするならエッチしても」 「嘘?マジで………」 「う、うん」 本来ならこれで、諸手を挙げて受け入れるべきだった。 後から考えたら、初めての風呂+目隠しプレイ+あやせが色々してくれる で充分、僥倖なのだが―――普通に見えてエッチするよりも 実は、ある意味良い要素もあるほどだろう でも ―――男は視覚で興奮する動物と言うこと ―――あやせはその視覚情報が最強ということ ―――今日は最初から、あやせに翻弄されて、焦燥してたこと だから俺は 『目隠しイヤです!目隠しイヤです!目隠しイ・ヤ・で・す・!』 と駄々をこねた。 あやせは―――……… 「もうしょうがないなァ………だったら―――」 俺はシマッタと思った。 何故なら―――この先に続く言葉は 『わたしの言うコト聞けない悪い子は一人でお風呂入りなさい!』 だと思ったからだ。 でも実際は 「目隠ししなくて良いです。でもエッチなことしちゃ駄目ですよ?良い?」 ………―――と言った。 でもとにかく、一緒に風呂るんだ。 そしてお互いに裸なんだ―――だから、力技で何とか 良い感じに出来ると俺は楽観していたが……………… あやせたんがバスタオルを開いてご開帳すると 「おお!………え?………ええぇぇ?」 …………み、水着だと 「撮影で使ったんです………どう?」 あやせは魅惑的に笑みを浮かべて俺は見た。 「う、うん………そ、そうなんだ」 「ねぇ………可愛い?」 まんまとあやせの作戦に引っかかった俺だった。 「あやせはやっぱり可愛いよ」 ところで、彼女がお洒落した時に、彼氏がやる行動と言えば?――― 「ダメ! 約束して守れないなら、もう金輪際一生、一緒にお風呂入ってあげないよ?」 何故か、風呂のあやせたんの貞操は オレイカルコス(オリハルコン)並に固いらしかった。 二兎追うものは一兎をも得ず ―――あやせと風呂入るなら、あやせの裸見ながらエッチしようとすると 目隠しのエッチも出来ず だった。 風呂上がり 「ねぇ………京介」 「何?あやせたん」 「わたし達お付き合いして結構経ってるし、 だからわたしって敬語使うのはなるべく辞めまし―――辞めたよね?」 「うん」 「だったら、もう一歩進めてちょっぴり乱暴な言葉で話すのとか如何 ―――どう(ですか)♪?」 「ら、乱暴………とは?」 「京介なんて………死ね、バカ、駄作」 「―――っておい!駄作って何だよ! 何だかよう分からんが………と、とにかく俺は絶対にイヤだぞ 俺のあやせたんがキャラ崩壊しちゃうだろ!」 「ふぅん………そう? だったらしょうがないから辞めてあ・げ・る・」 「是非、そうしてくれ 俺は誰が何と言おうと、今のあやせたんが好きなんだからさ」 「でも――でも、京介ってわたしに苛められて喜んでる時も 結構ある癖にぃ♪」 「それは凄く待て! それは誤解も良いところだ。俺は断じてMじゃねぇから! むしろ褒められて伸びる子なんだぞ!」 「ほんとぉ………かな? 実は今だって、わたしにいっぱい意地悪されたかったり………して?♪」 「そんなおまえのお口(タグ)はこうだ(ロック)!」 「―――あっ♪ ってもうっ、結局―――また………いきなり」 「あやせが可愛い美少女で良かった。 本当に――本当に良かった。 関わるのも面倒なキモヲタでなくてマジで良かった」 「それ………何のことです?」 「いや、全くもってこっちの話だ。 ほら、そんな事よかあやせたん………早く続きしようぜ?」 「ダメだよ ちょっと待って………今、髪といてるし お化粧もまだ途中」 「別に、すっぴんのあやせたんでも―――それはそれで」 「って言うか―――わたしの質問、今日もずっと一日お部屋の中?」 「って言うか―――俺も凄く疑問なんだが、 あやせは………その格好で外歩く気なのか?」 ―――風呂上がりに、着替えた今のあやせたんの格好 (明らかに)部屋着ではないが (明らかに)あやせには不釣り合いなエロい格好とは―――……… ふと、思う 俺の女の子と言うか―――あやせたんの七不思議 風呂で裸を見られるのは、今の所は何があっても絶対にNGなのに 風呂上がりの真っ裸の身体のケアをお手伝いするのは推奨されるということ 俺が、あやせの身に着ける下着を選ぶ権利を与えられると言う謎 女の子は―――あやせたんは未だに、深淵の謎に包まれている。 ………―――見せブラ(見せブラって何?)が(ヘソも)見えるほど 大胆に胸元が開いて(これでもかと強調されて)いるスリムのTシャツと ボトムは、これまたピッチピチのレザー風味のショートパンツ ―――どれだけショートかと言うと(見せショーツも見える)くらい その"見せ下着?"は俺が死ぬほどお願いして、 俺自らチョイスして、俺自ら自腹で購入したサテンの Tなバックなのであった。 「まさか………これはあなたが見たいとリクエストしたから、 着てあげてるだけですよん♪」 「そりゃ、そっか。安心したぜ。」 「それとも別に他の男の子に、この姿見られても ………別に良かった?」 「………え?」 「変態さんだから、興奮する?」 「絶対ダメだぞ!」 「ふふ―――でもこの姿のわたしが好きなんだ?」 「むろん、死ぬほど」 「京介って本当に、困った男の子だね~」 とあやせにクスクス笑われた。 その後、あやせが化粧し終わったのを見計らって 「ほら、あやせ抱っこ」 と言って、有無を言わさずあやせをお姫様抱っこして ベットに連れて行き、後ろから抱きついた。 「ねぇねぇ、せっかくお休みなのにわたし達お出かけしないのかな? せっかくのお休みなのに勿体ないよー、京介くん」 「だって、この時期は何処に行っても人、人、人の波だぞ? 俺はこうやって、可愛い俺の天使あやせたんとベットの中で ゴロゴロ――マッタリしてた方が100億倍楽しい」 「それってちょっと酷くないですかっ?」 「何だよ、イヤなのか? と言うかそんな格好してイヤって言われても、凄く困る」 「い、イヤってわけじゃないけど………でも、でも、でもっ、 ずっとお部屋のベットの上でエッチなことばっかりって―――」 「―――楽しいし、気持ちいいし、超一石二鳥じゃん!」 「うーん………はっ!? も、もしかして、やっぱり今日会ったのもわたしの身体だけが目的?!」 「もちろん、おまえの身体が目的だぞ 何故なら、あやせたんが一番喜ぶのがコレだからな あ~む♪」 「―――っ?!あっ♪ はぅ………あっ………ちょっとぉ………もうっ! ちょっとダメだってば、わ、わたし今日はここで流されないん…だ……から」 「あ~れ? 今日のあやせたんは、意外に強情だな?」 「わたしの彼氏なら、ちゃんと考えてみてくださ―――もっとよく考えてっ!」 「何を?」 「 最近は、いつもわたしがあなたのお部屋を訪ねる ↓ 3分で脱がされる ↓ こ、行為 ↓ 同点 ↓ ロスタイム ↓ 延長 ↓ PK ↓ おわり ばっかりじゃないですか!バカバカ 」 「いや、これって真面目に愛を確かめる行為だろ? make loveって言うじゃん? 彼氏と彼女、男と女、雄と雌、狼とあやせたん ―――好き同士の恋人が会ったら、会ってしまったら どうやってもロマンティックが止まらないもんだろ?」 「わたしのロマンチックは、だだ止まりです! 普段だって………わたしに え、エッチでいやらしい言葉ばっかり 言わせようとするし、そういう時って全然雰囲気なんて無いし」 「そ、そうだっけ?」 「 『あやせ、おっぱいって言ってみて』 『小陰○って言ってみぃ』 『大○唇って言って、ほら言って』 『ほら、あやせたん―――いつものおねだりは? それともず~とこのまま我慢する?』 」 「そ、そんなコトも有ったかな………?ハハ」 「あ、あの時は………わ、わたしがワケが分からなくなっちゃってるから あなたの言いなりだったけど、普通に考えるとすごい屈辱ですよね?コレ」 「良いかい?あやせたん 男って落差や意外性に萌える生き物なんだぞ? 俺が日頃から考えている『ギャップ理論』」 「はっ、はい?」 「エロゲーに登場するビッチな娘が実は家庭的とか あやせの様な清純なお嬢様が実はメチャクチャ(今の格好)みたくエロいとか」 「だ、だから一体何を言ってる―――」 「男って奴はこういう女子に頗(すこぶ)る弱い もちろん、俺も弱い―――メチャクチャ弱い」 「そんなのわりと、どうでも良いから! わたしに、いやらしい事ばかり言わせるなっ!って言ってるんですっ!」 「あやせなら分かってくれるかと思ってたんだが」 「わ、分かるわけないでしょ!京介の変態!エッチ!ドスケベ!」 「『変態』って言葉も―――よく考えるとエロい響きだよな 出会った時からおまえの罵倒って確実に俺の劣情を誘発してるぞ?」 「くぅ……………この………この!」 「『エッチ』、『ドスケベ』―――さぁさぁ遠慮なく言え、もっと言うんだ!」 無言で、殴(られ)る・蹴(られ)る・踏み砕(かれる)く 「イテテ………ま、待て待てっ!」 「ハァハァハァ………なんです? あなたが泣いても殴打・蹴撃・踏砕を辞めてあげないっ!」 「俺はエロに真剣に取り組んでるんだよ! あの頃の全力少年なんだ! 面白半分とか冗談じゃなくて真剣に言葉―――そう、エロ隠語の言霊を あやせたんに言わせるコトに命を賭けてるんだ!」 「そんなのに命賭けるくらいなら ―――すごーく久し振りに言ってあげるけど いっそこの場で、ぶち殺してあげましょうか?!」 「…………………待て待て待て、暴力反対! 話せば分かるって」 「分かるわけないし―――分かりたくもないし やっぱりもう死んじゃぇ―――」 「―――だ、だからちょっと待ってくれ! とにかく俺の話を………あっ!―――そうだ! しょ、勝負だ、あやせたん………俺と勝負しないか?」 「………勝負?―――勝負って何です?」 「あやせに、俺が一流のセクハラ野郎だと証明するから!(キリっ) それをあやせに納得して貰う為の勝負」 「ドヤ顔で言われても ―――『わたしの彼氏はやっぱりド変態でした』の証明なんてされても わたしには完全なデメリットしかないって知ってる? やっぱりこれが原因で死にますか?―――死にたいですか!」 「も、もちろん―――ただでとは言わないぜ もし俺が負けたら、今後一切一生、あやせとエロイことしねぇから」 「…………………え?」 「勝負にはリスクがつきものだからな 俺は俺の一番大切な物を賭ける」 「―――え、エッチが一番大切ってどうかと思うけど で、でも………あの一生とか………その………そこまで大げさに………」 「おいおいこの条件で、一体何が不服なんだ?」 「今回は――今回だけ………言葉―――そう、エッチな言葉を わたしに言わせるプレイを、絶対に今後一切しないと約束するということで 許してあげる」 「本当にエロ隠語禁止だけで良いのか?」 「こ、行為自体は別に、特別に――本当に今回だけは特別に 許してあげ……ま………す。だから感謝して………ください ―――優しい彼女に感謝してよね!バカ京介っ!(ぷい)」 「ニヤニヤ」 「気持ち悪いから―――気持ち悪い顔でニヤニヤしないで!」 「だって可愛いあやせたんを見てたら、俺はいつもだらしない顔になるさ。 それは勘弁してくれよ?な?」 「本当に京介の………バカ そ、それで………そ・れ・で・勝負って何で勝負するの?」 「そりゃ、どっちが先にイク………痛っ―――」 「―――何処に行きますか? て・ん・ご・く・に・?!」 「痛い、いててて………ごめん、ごめん」 「それとも、じ・ご・く・か・な・?!!」 「う、うそ、うそ、嘘だから………」 「どっ・ち・か・な・? ―――両方(りょ・う・ほ・う・)か・な・?」 「ちょっとっ………マジでっ待て待て、頼むから待ってくれ!」 「………………………………はぁん?」 「怖っ………あやせたん、本当にごめん―――この通り」 「ツギハホントウニ・・・ワカリマス・・・ネ?」 「は、はい―――もうしません」 「ハァーまったく………で・結局、何で勝負するの?」 「えっと、そうだ………尻とりとかどう?」 「わたしのお尻にまた悪戯するって意味じゃないでしょう………ねっ゛?!」 「痛いたた………ひ、被害妄想だ。 普通の尻とり」 「あなたってやっぱり意味不明過ぎ 普通の尻とりの勝敗で、何を証明出来るって言うんです?」 「だから尻取りで隠語言うってのは?」 「わたしの話を聞いてますかっ? わたしはそんな言葉言いたくないって言ってるでしょうが!」 「だ、だから俺は隠語、あやせは普通の言葉のハンディ戦でどうだ? ちゃんとした言葉の勝負―――正々堂々男と女の真剣勝負」 「言ってる意味全く分かりません―――全く分からないけど とにかくそれで、あなたが負けたら本当にわたしにエッチな言葉を 今後一切言わせないんですね?」 「もちろん、男の言葉に二言はない」 「分かりました! やりましょう―――受けてあげる、その勝負」 「ほう………やる気のようだな それでこそあやせたんだ。流石は俺の彼女だ」 「たっぷり後悔させてあげるから、せいぜい覚悟してくだ―――覚悟してっ! ド変態の彼氏に羞恥プレイを強要されるのも今日で最期なんだから!」 「んじゃ、レディーファーストであやせのターンからだが、 尻とりだから、『あやせ』の"せ"で良いか?」 「こら、京介! なんでわたしの名前がエッチな言葉になるの?!」 「いや、だからエロイ言葉は俺が言うから、おまえはノーマルの尻とり をやってくれ」 「あっそ ふん………あ、あやせ」 「せっ○す」 「すいか」 「カーせっ○す」 「スイス」 「す○た」 「す○たってな、何?」 「説明しよう 『す○た』と言うのはだな、こうやって―――」 「―――変態、わたしに触らないでっ!」 「実際にやった方が早いから つーかあやせたんは、もう何度もしたことあると思うよ?」 「だから脱がさないでっ・って言ってるでしょう! ちゃんと口で―――」 「―――口で流石にす○た出来ないぞ? それはもはや別のプレイになってしまうからな それは『ま○ぐ○返し』と言うあやせたんが二番目に好きな―――」 「だから言葉で説明してって意味ですっ! バカ!変態!エッチ―――パンチっ!」 「痛てたたぁ………ちっ。 簡単に言うと○○で××だ…………わかったかい?お嬢さん」 「はい、分かりました………死ねば良いと思います」 「ひど………と、とにかくあ、あやせたんのターン(あやせターン)だぞ? "た"だからな。張り切ってどうぞ」 「た、タコス」 「また"す"?………す、す、す?」 「あれあれ?もしかして………もう降参ですか? 本当に京介って口だけ―――お口も貧相だったのかな?」 「まだだ!まだ終わら(れ)んよ」 「ふっ………所詮は二流のセクハラ野郎だったようですねー?」 「ちょっと待って………お願いだから」 「ダ~メ♪5・4・3・2・1―――」 「す、す、………俺は負けるのか? こんな所で俺の野望は潰えてしまうってのかよっ」 その時、妹の持ってたヤバいゲームのタイトルが閃く 「ぜ~(ろ)―――」 「―――ス○ト○!」 「な、何ですそれ?」 「説明しよう」 ―――流石にこれは実践出来ない 「この変態、本当に穢らわしい ―――わたしの耳が腐っちゃったら一体どうしてくれるんですか?!」 「そういう勝負なんだ、文句はあるまい?」 「く………ロース」 「また"す"?」 「もうこんな不毛な勝負辞めて、素直に負けを認めちゃったらァ?」 「甘いな、あやせたん―――ス○○ロマニア!」 「今度は何です、一体?」 「だからマニアだよ、ス○○ロのマニア!」 「そ、そんなのダメ!」 「おまえはス○○ロマニアの権利を―――存在を認めないってのかよ?」 「絶対に認めませんっ!」 「あ~せこいな―――ビックリするくらいセコいわ。 あやせたんは、最初から正々堂々と戦う気はなかったんだなぁ。 分かったよ、俺の負け―――負けで良いさ。 正々堂々と戦って………卑怯なジャッジにやられた真の男が居た。 潔く戦い潔く負けた、男の中の男が居たこと―――忘れるなよ?」 「あ゛ーーも、もう分かりました―――分かったから。 "あ"でしょ………アイス!」 「また、す………………あっ!す、スケベ椅子!」 「何です?それ」 ―――以下略 「す?………スイス」 「―――それ言ったぞ」 「す、スイス人」 「ほう………"ん"と言ったな、言ってしまったな? これは俺様の大勝利―――」 「―――ち、違う………スイス人マニア」 「なんだよ、それ!狡くねぇか?」 「 何でス○○ロマニア!の権利と存在を認めて 何で"スイス人マニア"がダメなんです?! 何でス○○ロマニアは良いんですか?!!! 何でス○○マニアは許されるんですか!!!!!! 」 「クク………アハハハ」 「何がおかしいんです?」 「いや………なんかさ、あやせがそんな言葉を大声で絶叫してるって シュールだなと思ってさ」 「………………………え? ハッ!イヤァヤヤァァァァ」 「あ、あやせ? ちょっと………お、落ち着けよ」 「もう………イヤ うぅ………わ、わたし………わたし………こんな言葉を言わされちゃった うわぁん………わたし―――」 「―――な、泣くなよ!」 「わ、わたし、汚れちゃった―――穢れちゃった もうお嫁に………行けない………」 「だ、大丈夫だって どんなに惡堕ちしたって、俺が必ずあやせたんを貰ってやっから」 「ほ、ほんとぅ?」 「ああ、もちろん」 「絶対――絶対っ、京介のお嫁さんにしてくれ………る?」 「当たり前だろ? 現時点で、もう俺のお嫁さんだろ?」 「京介―――きょう………やっぱり好き………愛してる」 「お、おう、俺も愛してるぜ、あやせたん―――」 「―――………?………っ!!!」 「って………痛いっ、キスしながら殴るの辞めて……くれ」 「って、よく考えたら………あなたが原因でしょ?!このバカ!」 「な、何だよ? せっかく良い雰囲気だったのに、本当に今日のあやせたんは強情だな~」 「ふんっ(ぷい) 結局、またエッチなコトして、わたしが気持ちよくなっちゃったら その勢いでワケ分からなくさせて有耶無耶にしようって魂胆なんでしょっ?」 「あ~れ? ついに………バレちゃった?」 「今日の戦いは、これから先の将来の命題――― 京介をわたしのお尻に敷く? 京介にわたしのお尻をぶっ叩かれて、わたしが言いなりにさせられる? か、の勝負なんだから―――わたし、絶対に負けられない」 「げっ……何かすげぇ現実的なことを言い出したな?」 「何か………ご不満でも?」 「いや、全く――全然………不満なんてねぇよ つーか"尻とり"だけに、あやせたんの尻を賭けた勝負ってコトだな? 俺、あやせたんのそういう所―――お茶目でユーモアのセンスが有って やっぱ結構好きだぞ」 俺のあやせたんは、天性のコメディエンヌだと最近つくづく思う。 同時に―――それがとても魅力的だと言うことも 「ふ………ふん、口ではいくらでも誤魔化せるから嬉しくないし」 「本当にそう思ってるんだが、まぁそれは追々証明すると言うことで」 「と、とにかく、気持ち悪い言葉を言っちゃったじゃない、もうっ! 早く責任取って!」 「責任って言われてもなぁ………」 「もしかして、さっきの言葉を言わせる為に 誘導尋問してないでしょうね?!」 「ご、誤解も良いところだ。 さっきのは………本当に俺のせい?」 「京介のせいで、京介が全部悪い」 「んじゃ、それで良いけど それに"尻とり"勝負以前に、あやせがその気なら、 俺は確実にあやせたんの尻に敷かれるのは分かってるけど」 「へぇ~そうなんだ………ふーん、ふーーん」 「な、何だよ………その顔?」 「別に何も?………そ、それにしても 今日は、無理矢理わたしのチョーカーを外して襲いかかってこないんですね?」 「俺はド変態で、セクハラ野郎で、末期的なあやコン(あやせコンプレックス) ―――だ・が・し・か・し・ レイプマンじゃねぇから、あやせがガチでイヤなら無理矢理なんてしない」 「ふ~ん………そう」 「ああ、俺は全部あやせたんが喜んでくれるかと思ってやってるんだ」 「ねぇ京介、これ尻とりの勝負………だったよね?」 「そ、そうですよ………あやせたん」 「お尻に敷くか、お尻をぶっ叩かれるかの勝負で良い?」 「え? まぁそう………とも言えるかな?」 「で、京介はわたしのイヤなコトはしない?」 「もちろん! まぁそれならエロ隠語とか最初から言わせるなって話だがな」 「確かに ―――でもそれはそれとして、ちゃんと責任とってくれますか?」 「よし!分かったよ。 俺を誰だと思ってるんだ? 俺はあやせたんの言いなり―――新垣あやせの彼氏の高坂京介だ」 「ふふ………はい、手出して」 「何で今頃………手錠?」 「今まではあなたをつなぎ止めたくて、縛りたくて 手錠使ってたけど―――今日は違う」 「と、と言いますと?」 「物理的に拘束する為に使う………ほらっこうやってっ!」 ベットに拘束される俺 「………………え?」 「わたしが京介をお尻に敷きたいなら こうしたいならっ―――こうすれば良かった♪ 最初っから本当に敷いちゃえば良かったんだね♪ 京介―――大好き、愛してるよ♪」 「あや………せ? おまえやっぱエッチしたかった―――」 「―――勘違いしないでよね?本当に違うから これは………純粋に『尻とり』の勝負の続きだから」 と言って、俺の顔全体にレザーのショーパンを ―――自分の尻をグイグイと痛いくらいに押しつけてきた。 「うー(あやせ)ぅー(どういうつもり?)」 と、いくら声をだしても、当然マトモな声にはならず ―――しかも、もっと悪いことに 「ねぇ………嬉しい? それは………嬉しいよね? だって京介――わたしのお尻(フリフリ♪)大好きだもんね?」 そりゃメチャクチャ嬉しいが………息が出来ない 「お付き合いしたての時、 わたしが我が侭だったから、いっぱい京介にお仕置きされちゃったよね?」 「うー(………)」 「でもあの時は本当に凄く―――すごぉく、嬉しかった………。 お尻叩かれて、いっぱいエッチなコトされて、滅茶苦茶に感じさせられて 京介と肌と肌を重ねて―――心もちゃんと重なって いっぱい………い~っぱい、わたしの心と身体に触れてくれて幸せだった」 「………」 「わたし………感謝してる……よ」 「………………」 「 でも最近はそればっかりで、おざなりだから頭にきちゃったんだ 本当はもっと――もっといっぱいして欲しいの どんな恥ずかしいコトでも良いし―――変態のセクハラでもして欲しい でも他のこともしてくれないとイヤ エッチだけの関係なんて絶対にイヤ 身体だけなんて絶対にイヤ もっと心も―――わたしの全部を抱き締めてくれないくれないとイヤ 」 「………」 「だから今度からは、わたしが意地悪してあげる 全部――全部、京介が悪いんだよ? わたしをこんなに好きにさせて―――夢中にさせて ―――エッチにさせて―――わたしの全部を京介の為だけさせた癖に」 「………」 「ねぇ、わたしに意地悪されるのは………イヤ?」 「………コクコク」 と俺は何とか肯いた。 まだこの時の俺はプライドが残っていたのかも知れない 「あ~イヤなんだ! でも………だからやっぱりイジワルするからっ! やっぱり悪い子だから、ずっとこのままにしちゃうから♪」 また、これ見よがしに形の良い尻をフリフリ♪とするあやせ。 「うーうーうーー」 「京介がちゃ~ん…とぉ………イイ子になるまで………あんっ♪ ん♪…っ……許さないっ……絶対にぃ許さないだからっ♪」 今度はあやせが(多分、意図的に)卑猥に擦りつけるように 尻を前後にフリフリしてたので、完全に俺の鼻腔は塞がれてしまった。 「うーー(降参する)」 「あっ…んっ……京介♪こ、降参………する?」 「コクコク」 でも俺が何度も肯いて降参の意思を示しても、 あやせは全く、解放してくれなかった。 「んっぁあっ♪ ほんとにぃ……あっ…わ、わたしに降参?♪…っあ…ん…しちゃうぅっ?」 それどころか、レザーのショーパンを太ももの間まで脱いで、 (でもエッチじゃないと言う建前上?)Tバックのショーツは脱がず その状態で―――さきほどの顔全体からピンポイントで、あやせは俺の口唇に 自分の下半身の口唇をお互いにディープキスかの如く押しつけた。 「か、勘違い………っ……しないで………よ?♪ これは………わたしぃ感じる、か、感じてないっ!……からねっ? はぅ…あっ♪……感じて…る…わけ…じゃなぃん………だからっつ!」 そしてあやせは何故か、今度はチビTの下から手を入れて するりと自分のブラを外した。 ―――上から見下ろすあやせの視線と、本当に椅子みたく敷かれてる俺の 視線が下から交差した。 ほんの一瞬だけの出来事だったが、あやせは俺がゾクゾクするほどの 魅惑的で、残酷で、嗜虐的で、羞恥に満ちた顔をしていた。 「ねぇッ………京介♪ ねぇっ………苦しい? でも………やっぱり嬉しい?♪ もう……ぅ………辞めるっ?、もう辞めちゃう?」 あやせはそう言いながら、 露わになった自分の両胸を、俺に見せつける為に(でもTシャツを着たまま) いやらしく自分で愛撫し始めた。 そして当然、それが原因であやせの腰と臀部の動きが更に激しくなった。 「んーダメなのっ♪ 京介の、きょう…っ……罰な…んァ…だかっらァ……ぁっあん♪ ぜったい許してっぇ………あげない………からっ……だめっ…あっ…げない」 俺はそんなあやせの肢体と胸と、ほぼ視界を遮られている ゼロ距離の俺を苦しめている元凶を必死で見ようとした。 「うーー」 俺は自分の涎とあやせの愛液で、ますます窒息しそうになりながら 最期は必死に、頭と口と舌を動かして必死に足掻いた。 「これぇ…っ!、コレ…、好き…………かもっ、 これっ………イィの………あっ♪、もうっ!いっ…くぅ………からっ ああっ♪………わたぁしぃ………京介……わたしぃ好…きぃ?」 何度も、肯定の意味で首を縦に振ろうとする。 その振動のせいか―――あやせは身体全体が痙攣し始める。 まるで―――本当にお互いに口と口でキスしている様に 俺とあやせは、舌と舌を絡め、唾液と愛液を溶かして、お互いの口唇を 何度も――何度も激しく貪り犯し合った。 「あっ…あ……京介っ…………いっ…てェ……っ………イィって」 俺はあやせと一緒に ―――同時に昇天しろと言う意味だと、最初は思った。 ―――でも違った。 そうだった、これは俺への罰だったんだ。 「すゅきって、いってっ…きょう…あっ♪……愛してるぅ……いって…言っ」 「 うー(あやせ、好きだ!) うー(あやせ、好きだ!) うーー(あやせ、好きだ、好きだ、愛してる!!!!!!) 」 「京介ぇ………あっいしってるっ♪ きっきょう………愛…しぃてる…っつ♪ す……き…… すっ!き…ぃっ!♪ すきぃっぃ…イック………京介に…乗ってわたし、いくぅ あっ♪これぇ……すごっいぃっよっ!……あぁ♪…お尻…ヤバぃ あ゛っ……あっ!イックっ…京介ぇイッちゃう…お尻に敷いてイクゥぅ!!!!」 あやせが俺の口の中を大洪水にして昇天した時、 ―――同時に俺も指一本触れられずに一緒に波打ちながら 激しく昇天していた。 「………ハァハァハァハァ」 「ねぇ、京介………参った?♪」 あやせは俺の顔をようやく解放すると、 ―――俺の腹筋の上にちょこんと座って、俺の頬を優しく撫ながら、 最期は抱きつきながら言った。 「ま、参りました」 ビショビショに濡れた口の周りを拭いながら、俺は肯いた。 ―――今まであやせにやられた殺されかけで 一番リアルに死にかけて、一番………ゴホン、俺はMじゃねんだから 『あやせたんの尻に敷かれて、こんなに気持ち良いわけがないっ!』 あ~本当に、文字通り―――尻に敷かれた。 俺、色々な意味で………完全に負けた 名実共に、俺のご主人様『黄金週間』が終わった気がした。 その後、暫くマッタリして 「ふ、ふん―――負けたんだから 金輪際わたしにエッチな言葉言わせないでくださいねっ! ―――言わせないでよね!(べー)」 「ぐ………マジか 俺は―――俺は大切な何かを永遠に失っちまったのか………?」 「そ、そんなあからさまに落ち込まなくても したいことは―――エッチなことは、何でもさせて(して)あげるんだから それにさっきは、喜んでた癖に、ドMの癖に むしろ喜んで感謝して―――泣いて感謝しろ、京介のバカッ!欲張り!」 「イテテ……………………………! ………あ、あやせ、これ食う?」 「え?あ、ありがとう。 頂きます―――あ~む、甘くて美味しい♪」 「そうそう、甘い物を食べるとリラックスして色々と収まるらしい ところで、これ何だっけ?」 「え? きのこの山………でしょう?」 「んじゃこっちは?」 「たけのこの里………?」 「………!? しつこいほど再度確認しておくけど、さっき言ったみたいに セクハラ―――もとい、俺たちの愛の行為は今まで通りで良いんだよな?」 「それまでダメって言ったら泣かれたり、土下座されたりしそうで困るから 約束の通り―――しょうがないからお情けで、今まで通りに許してあげます」 「ありがとうな………あやせたん」 「本当は………暫くエッチは絶対禁止でお預けのつもりだったんです でもそれだと、絶対にイヤなんでしょう?」 「そりゃ、もちろんイヤだよ」 「それが原因でさっきみたいに、 わたしのお尻にいっぱい乗られても………?」 「エロなしになるくらいなら、 あやせに―――あやせたんの美尻に窒息させられた方が 万倍マシだぜ!」 「へ、変態」 「でさ、あやせ………これは?」 「だから、きのこの山だって」 「えっと、ゆっくり深呼吸しながら言ってみぃ?」 「ちょっとっ………何で今、わたしのおっぱいを触るんですッ?!」 「エッチはして良いんだろ? ほら…言ってみて?」 ―――あやせのおっぱいをモミモミ 「あっ♪って………今日はお預けの日………だから………お預け……… きぃ……のっ……こぉお……のっ…あぁ♪、………やぁっまァ……んンぅ♪」 「と? ………こっちは?」 ―――さっきの箇所をは~む♪ 「なん………で? わ、わたしぃ………ぁあっ……そこ舐めぇぇ……なぁい……っ…で……」 「良いから――早く!」 「たっけえぇん…あっ♪……のこォ……ぉ!、あぁっ……のっ…さとぉ…ンっ♪」 「………―――って何やらすんですか!この変態!!!!!」 「すいません、すいません………出来心なんです」 「あ~わかった♪ さっそく、わたしにお仕置きされたくなったんだ? あーそうか、京介がこんなに変態さんだなんて分かってたけど ―――今まではすっかり忘れちゃってたから、わたし♪」 「待って、誤解だって」 「大丈夫………5回じゃなく10回してあ・げ・る・♪」 「………………」 ヤバイ、誤魔化さなければ………流石に不味い 「これは?」 「きのこの山!」 「こっちは?」 「たけのこの里!!!」 「お、俺は?」 「ぶ、ブチ殺しますよ!」 「た、助かったぜ」 あのスイート・拷問より、殴られた方が ―――今の俺には全然マシだ 「ふふっ、な~てね♪ まさか、これで………許して貰えると思っちゃいました?」 「え゛?」 「今度からは―――今からは、悪い京介くんの罪は 問答無用で、わたしのお尻(フリフリ♪)で いっぱい――いっ~ぱい罰してあ・げ・る・からね♪」 「………………う、うそ」 「ほら、イイから早く………おいで?」 「はい………よ、喜んで」 「ふふん♪ 京介くんは素直な良い子だから特別に選ばせてあげるね♪ ねぇ、ねぇ、レザパンとTバックと………直に生のま・ま・♪ わたしのどのお尻(フリフリ♪)で敷き殺してほ・し・い・?」 結果―――全部やられました ……………これが今年のゴールデンウィークの俺の一番の思い出 おわり
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SSリスト カップリング別へ移動しました 桐乃×京介 黒猫×京介 麻奈実 あやせ 来栖加奈子 フェイト 赤城瀬菜 槇島 沙織 リア・ハグリィ
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http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1308729425/233-240 俺・高坂京介は今、総武線に揺られている。都内、正確にはアキバ帰りだ。 また妹のパシリ乙、と思ったそこのあんた。残念だが間違っている。 なぜなら、俺の目の前では我が妹・桐乃も一緒に電車に揺られているからだ。 そう。断じて俺はパシリではない。荷物持ち要員なだけだ。悪いか? 今日の俺は桐乃様の命を請け、渋谷での限定発売アクセサリー、 秋葉原での同じく限定発売フィギュアの買い物に駆り出されたってわけだ。 アクセサリーもフィギュアも嵩張るものではないことに気付いたのは 千葉駅から電車に乗った直後だったということが俺の迂闊さを物語っている。 まったく、桐乃のヤツ、一人で行けっての。 だが‥‥‥アキバ帰りの今、桐乃はスゲー機嫌が悪い。 限定アクセサリーも限定フィギュアも入手できなかったからである。 おまけに電車はメチャ混み。桐乃の不機嫌は頂点に達していた。 「んああああー、ムカつく!」 「オイ、うるせーぞ。大人しくしてろ」 「うっさい! マジムカツク! アクセもフィギュアも買えなかったし、 電車は混んでるし、アンタのせいだかんね!」 「お、俺のせいかよ!?」 限定アイテムを買い損ねたのは、桐乃が出かけるのに手間取って店に着くのが 遅くなったせいだ。女というのはセットアップに時間がかかるからな。 そして電車が混んでいるのは、混んでいる時間帯だからだ。俺のせいじゃない。 まあ、桐乃の理不尽さは今に始まったことではないから、腹も立たないけどな。 とは言うものの、今日の電車はとても混んでいる。俺にとってもキツイ。 華奢な桐乃は躯を他の乗客に押し潰されそうだ。桐乃が文句を言うのも解る。 仕方ねえ‥‥‥な。 「ちょっ! ナニすんのよ!?」 「うっせ! 黙ってろ!!」 俺は桐乃を車両の隅に押しやり、そして桐乃の前に立ちはだかった。 こうして俺が壁になってやれば、桐乃も少しは楽になるだろう。 ‥‥‥のはずだったのだが、他の乗客に押されて、俺と桐乃は完全な密着状態に。 「(な! ナニしてんのよ!? アンタ!)」 「(仕方ねえだろ! 混んでいるんだからな!)」 「(ドサクサに紛れて触る気!? このシスコン!)」 「(いいから黙っとけ! こんな時くらい兄貴の言うことを聞け!)」 「(超かわゆいアタシと地味なアンタが兄妹だなんてね! 全っ然似てないし)」 他の乗客を気にしつつ小声で会話をする俺と桐乃。桐乃の香水の匂いが香しい。 そして、気がつくと俺の左手は何やら温かく柔らかいモノに触れていた。 「(こ、このスケベ!)」 桐乃が物凄い顔で俺を睨む。どうやら俺の左手は桐乃の腰に侵攻していたらしい。 そして右手は‥‥‥? ハ、ハハハハ。桐乃の背中に回っていたよ、オイ。 ん? 指先に感じるこの感触は? ハハハハ。ブラジャーの留め具ですね! 指を動かせば外せるんじゃね? ぷちっ そう、こんな具合にな‥‥‥ ‥‥‥外しちまったよ!! 必死に言い訳するが、これは事故だからな! ああ、この辺で桐乃が怖い。きっと悪鬼の形相の筈だと思いつつ桐乃の顔を 見ると真っ赤な顔で震えている。痴漢に遭うとこんな顔になるのだろうか。 電車が揺れる度に俺と桐乃は密着を繰り返し、段々と桐乃の躯が熱くなる。 シスコンの俺が熱くなると言うのなら解るが、何で桐乃が熱くなるんだよ。 そんな桐乃と躯を密着させていると、不埒なことを想像してしまう。 これじゃ俺が痴漢そのものじゃねえか! 畜生、千葉駅まであとどんだけだよ? 体を火照らせて震える桐乃を抱きしめた格好で、千葉駅に辿り着くまでの時間を ただ黙って過ごすしかなかった。 ‥‥‥‥‥‥ 「どうしました? 大丈夫ですか?」 俺はその声で、半分意識が飛んでいた状態から正気に戻った。 声の主である凛とした感じの女性が俺の目を見据えてこう言った。 「お手数ですが、ご足労願います」 ご足労って、こんな混んでいる電車で‥‥‥って、いつの間にか空いてるし! 俺の意識が飛んでいる間に電車は千葉駅に滑り込んでいたようだ。 そして俺の目の前には、俺の左手を腰に、俺の右手を背中に回されて 惚けた表情の桐乃が居た。 ―――さて、客観的に説明しよう。 混雑もしていない総武線の車内の隅に、茶髪の美少女が地味な男に追い詰められ、 両の手で抱きつかれている――― こんな感じになる。文字にすれば痴漢の現場そのものにしか見えない。 「オイ? どうした? しっかりしろ!」 「ふえ?」 桐乃は惚けた表情から復帰せず、俺の呼び掛けにも要領を得ない。 ダメだコイツ、早く何とかしないと。さもないと、とんでも無いことになる! ‥‥‥‥‥‥ とんでも無いことになる―――そんな俺の予感は的中した。 凛とした女性に俺と桐乃は千葉駅の鉄道警察隊まで連れて来られた。 桐乃は電車を降りてからここに着くまで、ずっと惚けた表情で俺のシャツの 裾を掴んだまま。おーい、正気に戻れー! そして警察隊に着くと、俺は男性の隊員に、桐乃は凛とした女性の隊員に それぞれ話を聞かれる。勿論、痴漢の加害者と被害者という立場でな。 まったく、冗談じゃねえよ! 「君はあの女の子に一体何をしていた?」 俺の親父を彷彿させる屈強そうな男性隊員が俺を問い詰める。 いや、元々は超満員電車でしたよ? 妹を守った結果がこうなのであって。 「大丈夫よ。何があったのか話してちょうだい」 相変わらず惚けた表情の桐乃は、凛とした女性隊員に問いかけられる。 何か嫌な予感がする。あの表情はエロゲでヘブン状態の時と似ているからだ。 もし桐乃が訳も解らず俺のことを痴漢だと証言したら一体どうなるのか? 桐乃! 嘘は言うなよ! ありもしないことを言うなよ! 「えっと‥‥‥電車の隅に押し込まれて‥‥‥腰と背中に手を回されて‥‥‥ ブラのホックを外されて‥‥‥」 本当のことも言うな! 二人の隊員が俺を睨み付ける。最悪だ! もしここで桐乃が「こんな人知らない」とか「逮捕して下さい」なんて 言いやがったら、俺の人生は終了するだろう。 どうせ終了するなら、いっそあやせの手で‥‥‥なんて発想が出てしまうのは、 俺の頭が混乱している証左に違いない。落ち着け俺。冷静になれ俺。 ‥‥‥‥‥‥ そうか‥‥‥冷静に考えれば俺たちって兄妹じゃないか。似てないけどな。 疚しいことなんて何も無い。正直に兄妹だと言えば大丈夫だろう。 うん、冷静になっているな、俺! 「じ、実は俺たちは―――」 本当のことを言えば大丈夫。 そんな高を括っていた俺が発した言葉に、さっきまで惚けた表情だった桐乃が 突拍子もない言葉を続けた。 「恋人同士なんです!」 うぇっ!? 今、何と!? 恋人同士? 俺と桐乃が? またその展開? 困惑した俺は桐乃の真意を問おうと、桐乃の目を見た‥‥‥が、 惚けた表情から完全復帰した桐乃が俺を睨む。そして、 『アンタ、黙ってなさいよ! 殺すよ?』という声が視覚を通して聞こえてきた。 まるで蛇に睨まれた蛙のように俺の動きは完全に封じられてしまった。 「本当? 脅かされているんじゃないの? 大丈夫よ。本当のことを話して」 この凛とした女性隊員は、俺をとんでも無い鬼畜野郎だと見ているらしい。 いや、脅されているのは俺ですから! 「本当に恋人同士です! 証拠だってあります!!」 「証拠って、オマエ?」 「京介ぇ~? もしかしてぇ、まだ三回目のデートだからって照れてんのぉ?」 桐乃が悪戯っぽい表情で俺を見つめながら、甘ったるい声で話す。 うへええええぇ、キモチわりー! それにしても三回目のデート‥‥‥だと? 偽デートの他にもあったか? 「フヒヒ、しょうがないなあ。ほら、アレを見せてあげようよ!」 「アレ?」 「ほら、コレ♪」 そう言うと桐乃はバッグから携帯を取り出した。勿論、“あの”携帯だ。 ああ、そういうことか。仕方ねえ‥‥‥な。 俺は、これから展開されるであろう恥を忍んで“あの”携帯をポケットから出し、 桐乃の携帯と並べて机の上に置く。共に“裏返し”でな。 男性隊員と凛とした女性隊員は『俺と桐乃のらぶらぶツーショットプリクラ』が 貼られた二つの携帯を見比べると、俺たちを恋人同士だと認めてくれた。 二人の隊員がニヤニヤしているように見えたのは気のせいじゃあるまい。 チクショー! 恥ずかしいぜ! これだけでもひどい羞恥プレイ状態なのに、 桐乃のヤツは、 「見て下さい!」 と言って待ち受け画面まで披露しやがった。しかも――― 「さあ、アンタも見せなって!」 やめて! 死にたくなる!! お揃いプリクラの携帯という時点でアウトなのに、 妹の、いや『恋人の水着写真』を待ち受けにしているなんて見られたら、 千葉駅にはもう近づけなくなるぞ。警察24時モノで撮影されたら、 モザイクとボイスチェンジで処理されて放送されるに違いない。 バカップルなんて視聴者の興味を惹くには最高のネタだろうしな! だが、そんな俺の心の抵抗も虚しく、俺の待ち受けが披露されてしまった。 ああ、俺の尊厳が‥‥‥ ‥‥‥‥‥‥ 「よかったね~♪ あのプリクラと待ち受けのお陰で助かったし」 「ああ、そうだな」 電車の中での破廉恥行為を窘められただけで“恋人同士”の俺たちは放免された。 あのプリクラが決定打になったのは否めない。感謝したいくらいだ。でも――― 「なんで、『恋人同士』なんだよ? 兄妹って言えば良かったじゃないか」 「だって、似てないアタシたちが兄妹と言ったって信じてもらえないし」 「ますます怪しまれる、か?」 「そう! 似てないんだから、恋人同士の方が通りが良いでしょ? ふふん」 妙に桐乃のテンションが高い。限定のアクセサリーとフィギュアを 買えなかったことでの不機嫌は、どこかに飛んでしまったようだ。 「オマエ、機嫌直ったのか?」 「ムカついてんに決まってるでしょ! 電車の中でアタシにあんなことして!」 「へ!?」 「『へ!?』じゃないっての! 超かわゆいアタシを抱きしめて、 そして、アタシのブ、ブ‥‥‥ブラを外すなんて!!」 「あ、あれは事故だ!」 「ふーん、否定しないんだ。へへーん、この変態♪」 このクソアマ、俺の弱みにつけ込んで調子に乗りやがって。 「‥‥‥ナニ、ボサッとしてんの? さっさと腕を出して!」 何だよいきなり? と言いたかったが、警察隊の真ん前で揉め事はマズイし、 何よりも桐乃が不機嫌になることを恐れた俺が素直に出した右腕に 桐乃は自らの腕を絡ませる。 「オイ、何だよ!?」 「だって、アタシたち“恋人同士”じゃん? こうしないと変に思われるでしょ?」 俺は警察隊の中の人を横目に、抗うこともなく桐乃の行動を素直に受け入れた。 “あの”携帯を人前で披露し、恥ずかしいなんて感情は吹っ飛んでいたからな。 決してシスコンだから、ではないぞ! 「アンタに似てないアタシに感謝しなさいよね」 「はぁ?」 「似てないから、恋人同士って言い逃れが出来たんだから」 「へいへい。こんな地味な俺と似てなくて良かったなぁ」 俺はカドが立つ寸前ギリギリの悪感情を込めて言い放ってやった。 「ホント‥‥‥似てなくて‥‥‥良かった」 桐乃はそう言うと、俺の右腕を強く抱きしめた。 『似てないふたり』 【了】
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http //yomi.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1288544881/768 やっつけ 「おにーちゃん! あそんであそんで!」 「コラ、パパのことはちゃんとパパと呼びなさいって、なんど言ったらわかるんだ」 「だってママが、パパのことはおにーちゃんって呼べって言うんだもん」 「……はぁはぁ」 「おい桐之、自分の娘になんて教育してんだ」 「……はぁはぁ、なにコレ、カワイ過ぎでしょ……! 歳の差兄妹萌え! 超極上生意気美幼女とヘタレ兄貴とかこれなんてアヴァロン(全て遠き理想郷)?!」 「娘で自分の歪んだ欲望を満たしてんじゃねえ!」 「でもよく考えたらホントの妹はあたしなのに、この子に妹の立場取られちゃってるってコトよね ……え、ええ?! なに今のゾクゾク?! これが噂のntr属性?! あたしそっちに開眼しちゃった?!」 「あなた、今度の日曜日はこの仔と映画に行こうと思うのだけれど」 「……またアレじゃないだろうな」 「愚問ね。眷属の主としての自覚を持たせるにはそれ相応の帝王学というモノが必要なのよ。 だから、佳き教育材料というものは繰り返し繰り返し視聴させて然るべきだわ」 「でもなあ、さすがに四回目だぜ? それにさあ、言い回しとかが――その、まだコイツには早いっつーか、 たとえば『所詮貴様は盤上の騎士――女王に勝てる道理など、那由多の彼方にも存在しない』とか言われてもよくわからんと思うんだが ――うげっ、台詞まで覚えちまってる」 「御父様、さんせいですわ」 「おお、お前もそう思うか」 「こんどは、おえかきのどうぐを買いに、せかいどうにつれて行ってほしいの」 「まあ――それでも構わないかしら。そろそろデッサン人形も必要と思っていたことだし」 「…………」 「ちちうえー! 見てくだされ! このギャン、せっしゃがつくったのでござるぞ!」 「京介殿! こ、この子は天才でござる! 出来たばっかりのザクを砂場で汚して『この方がアジがでるとおもったでござる』と言ったときは、さすが拙者と京介殿の子供と感じ入ったのでござるが ――まさか教えもせずにマッキ―ペンでスミ入れをするとは思ってもみなかった!」 「確かにすげぇが……ニッパーとかヤスリとか、まだ使うには早くねえか? ケガしたらあぶねえぞ」 「はは、ちちうえ、そんなへまをするのは、そのひとが坊やだからでござるよ」 「……あとさ、沙織。お馬さんゴッコっつって俺の背中に乗っからせたとき『俺を踏み台にした』ってボソッて言ってニヤニヤしてたんだが 何か心当たりは無いか?」 「ω」 「……ってなことがあってな、みんな娘の教育をフリーダムにしすぎなんだよ」 「あ、あ、あなた! 私とこの子の前で他の女の話とは良い度胸ですねぶっ殺しますよ?!」 「おかあさんわたしのおとうさんになんてこと言ってるのぶっころしちゃうよ?!」 「ぶ、ぶっ殺すって……あなた! いったいこの子にどういう教育してるんですか!」 「いやお前の影響だろう」 「きょうちゃ~ん、お茶が入ったよ~」 「おと~さ~んおちゃですよ~」 「…………ガシッ(無言で二人を抱き寄せる)」 「ふぇ? ど、どどどしたのきょうちゃん。まままだだだだだここんなに明るいのに、この子も見てるのに ……この子も、いっしょに?」 「え~、なにするの~? いつもおと~さんとおか~さんがやってるぷられすごっこぉ?」 「それを言うならプロレスごっこだ……って、え?」 「あ、きょうちゃんだいじょうぶ! ちゃんとうまくごまかしてるから!」 「……お前だけは俺を落ち着かせてくれると思っていたのに」
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「ちょっと違った未来9」 ※原作IF 京介×桐乃 二人で駅前まで歩き、桐乃があやせに返した時間通りに着くと、 「桐乃~!」 夜のライトが照らす中、駅前の噴水をバックに立っていたあやせがこちらに気がつき声をかけてきた。 「あやせ、ごめん、ま、待った?」 「ううん!今来たところだよ~!」 嘘付け。どう見ても現地待ち合わせ時間より前からいましたって感じじゃねえか。 その証拠にあやせに声をかけようとしていたであろう遠くにいる男たちのうめき声が聞こえる。「ちっ、男がいんのかよ」、とか、「さっきから俺のほうを見ていてくれていたと思ったのに」、とか。甘い、甘いぜ。貴様ら程度に御しきれる存在ではないわ! ーーー新垣あやせ。通称・ラブリーマイエンジェル。そして現在は…。 「あれれ?一体こんなところで何をしているんですか?お に い さ ん ?」 元・ラブリーマイエンジェル。現・ジェノサイドマイデビル。俺と桐乃の前に立ちはだかるその大いなる壁…。 …このことについて説明を加えねばなるまい。 俺が大学受験に合格して一人暮らしを始めた時、桐乃が俺のアパートに押しかけてきて、俺達はその夜、結ばれた。 それから桐乃と情事を終えた際にこれからの事を話し始めた。…その時の話の要約として俺達には3つの壁がある、ということを認識した。 一つは親父とお袋。もう一つは麻奈実。そして、あやせ。 どう考えてもこの4人は猛反対するだろうな。だが、あやせはもしかしたら…ということで俺と桐乃は意見が一致した。 桐乃は血が繋がっていないとはいえ、兄妹であることからの暗雲が漂うであろうこれからの2人の未来に不安さを滲み出したのか、俺の身体にそのすべすべした柔肌をすり寄せまさぐりを入れてきた。 俺も桐乃のそんな不安に怯えながらも、俺だけしか見えないその瞳に愛しさを感じ、初夜を迎えたばかりなのにまた燃え上がった。 桐乃は初めてで血に濡れそばった秘部でまだ痛みを感じるだろうに、必死に我慢して、けれど敏感なのかすぐに快感に打ち震えた。 俺の首もとと腰回りに俺を決して放したくない、離れたくない、といわんばかりに両手両脚を回し、俺を受け入れ何度も喘ぎ声を上げオーガズムに達した。 ーーー何があってもこいつを守ろう。絶対に、守るんだ。 桐乃の女神のような身体を愛しながら、そう固く心の奥で俺は誓った。 して、話は3つの壁に遡る。 ーーー一つ目。親父とお袋の壁。 …正直にいえば俺は親父からぼこぼこに殴られ、お袋においおい泣かれ、勘当を言い渡される覚悟だった。 今まで育てた恩を忘れやがって、この恩知らずが!! …ドラマや小説でよく聞くこんなセリフ。こんな言葉を浴びせられてもしょうがない、と思っていた。 一生償っていこう、とさえ覚悟していた。…それほどまで俺の中で桐乃という存在は、かけがえのない人だった。 実家へ二人で向かう道中、桐乃はそんな俺の心中を察してくれたのか、 『今日、もし家から追い出されてもあたしがいるよ。二人で出て行こう。でも、時間をかけてお父さん達にわかってもらおうよ。』 と俺の指を指で絡ませながら言ってくれた。 …このときほどこいつを愛らしく思ったことはない。 家の門の前に着いた時、どちらともなく二人で絆を確かめるようにキスをして、呼び鈴を鳴らした。 …ところがどっこい、そんな俺達の覚悟など無かったかのように、親父は、 『そうか。それなら桐乃を嫁に出さずにすむしな。よくやった、京介。』 とにんまりとして(あの極道顔で!)言い。お袋も、 『あらそう。いいことじゃないの。京介、しっかり守ってあげてね。』 と今夜は赤飯だ~などといいながら台所に戻っていった。 このときほど肩透かしを食らったことは後にも先にもねえよ…。(ちなみに親父。桐乃を嫁に出さずにすむって、そんな理由でいいのかよ!?) ーーーそしてもう1つ…。今度は麻奈実だ。 これは予想通りだった。 昔よく3人で遊んだ公園に呼び出し、そこで話をした。 なんの事情も聞かされていない麻奈実に対し、桐乃は俺との血のつながりがないことを告げた上で、 『きりりん大勝利~♪』などど口にし、 『あんだけ尽くしてきたのにさあ、京介取られちゃってぇ~、今どんな気持ち?ねえねえ、どんな気持ち?どんな気持ち?』 と爆笑しながら嘲弄し始めた時はさすがに頭を殴ってやったが。 (殴って麻奈実に謝らせた後、「積年の恨みが…」とかぶつぶつ言っているのは聞かないことにした。) それから、俺と桐乃の事情を話すと案の定、麻奈実は反対してきた …曰く、『反対できなかった皆の分も私が反対するね。』 …曰く、『きょうちゃんが誰と付き合おうとも私は一向に構わない。だけど、桐乃ちゃんだけは、別かな。』 と言うのだ。 そして、『私が認めなかったら、二人は付き合えないよね?』と、いつもの、しかし内実は凍えるほど温度を低下させた笑みを貼り付けて言うのだ。 麻奈実は俺の言う事は大抵笑顔で受け入れてくれる。…だがこうなった麻奈実を押し切るのは、不可能に近い。 …しかし俺達は負けなかった。 俺一人なら麻奈実を論破できなかったろう。簡単に返り討ちに合っていたかもしれない。しかし、今回は桐乃がいたんだ。 だから、負けなかった。麻奈実は俺たち二人を祝福してくれた。 心の底からはまだ無理かもしれないけれど、時間をかけて必ず祝福すると。 そん時は俺と桐乃は幼いあの頃に戻ったみたいにわんわん泣きじゃくった。 麻奈実はそんな俺達を優しい眼差しで泣き止むまで暖かく見つめていた。 ーーーで、最後、だ。 実はこれが一番の強敵だった。いや強敵、だ。 新垣あやせ。通称・ラブリーマイエンジェル(二度目の天使な紹介)。 桐乃と俺は瑠璃と並ぶもう一人の親友であるあやせを誰もいない実家で昼間呼び出し、俺との関係を伝えた。 兄貴を、京介を愛しているの、と。 ところが…天使はその愛らしいつぶらな瞳から一気に光彩をなくし、 『この変態がぁ!!死ねえええええ!!!!』 とミドルキックを俺の顔面にかましてきた。(←すんでのところで回避) その場は桐乃が暴れまわる闘牛よろしく、どうどう、と押さえ事なきを得た。 その場は「とても納得いきませんけど、帰ります。」とプンプンして(←可愛い)帰っていった。 ところが…その後だった。あやせの真の恐ろしさは。 あやせは桐乃との関係は変わっていなかった。少なくとも俺が見える範囲では。しかし… 「お兄さん?聞いてます?わたしはお兄さんの馬鹿顔なんか呼んでませんけど?」 …回想終わり。現在に戻る。 あやせは桐乃とはなんにも変わっちゃいねえよ。むしろ前より仲がよくなった気がするくらいだ。だが…。 「あれ?お兄さん?耳に糸くずついてますよ?」 糸くずをとる可憐な仕草で俺の耳を爪先で捻るあやせ。いてて…!! しかもその際耳元で「さくっと死んでください」という呪詛付き。泣けるぜ…。 あやせは桐乃にはなにもしない。しかし俺には小姑よろしく、会うたびに様々なダメだしを理由をつけてはしかけてくる。 …そういえば俺には小姑的存在がいないんだよなあ。お袋も違うし麻奈実も違う。 未来は明るいぜ、いやっほう!!…などとそんなことを考えていた時期が、俺にもありました。 甘かった。まさに獅子身中の虫。敵は嫁の親友に在り。 …記憶を失った後そんな一連の流れを見ていない桐乃が(これも覚えてないのか…。)どうしたらいいのかとあわあわとしている。 「でも今日のお兄さんは少しだけ及第点です。」 くすっ、と蝶が舞うような笑みをこぼすエンジェル(←蝶カワイイ!!)。 「こんな夜の道…記憶を失って万全でない桐乃が…もし一人で来ていたら…お兄さんを○していたかもしれません。」 こえーよ!なんだよ○すって!笑顔と言動がリンクしてねえーんだよ!…でも天使。 悪魔にその身を堕としても、なお美しいあやせに「すこし」デレデレしてしまった。 「まあ、鬼畜歩く18禁男である変態シスコンお兄さんが桐乃を一人にするわけないと思ってましたがね。」 そうですか…。もう少しで敵前逃亡図りそうでした、つったらサンドバッグ確定だろうな…。 ありえたバッドエンドを回避できたことによる冷や汗と安堵感を胸に収め、俺はあやせに、 「ところで今日は桐乃になんの用なんだよ?」 「あれ?用がないと桐乃に会っちゃいけないんですか?というか桐乃の小間使いの言える発言ですか?分相応・不相応って言葉ご存知ですか?」 そんなので警察官大丈夫ですか?何かあったらマスコミに訴えましょうか?、とも付け加えるあやせ。 もうやめて!俺のライフはゼロよ!! ガクッと肩を落とす俺にあやせが 「…特に用はないんですけど、桐乃に会いたくなったんです。…あと、お兄さんにも。」 最後なんて言った?小声でよく聞き取れなかった。 ぷいっ、と「な、なんでもありませんっ。」と顔を背けるあやせ。 …ふと桐乃の方をみると、 「む~。」 口元を「~」←こんな具合にしてむっとしていた。 「あやせと京介さんは、ど、どんな関係なんですか?」 桐乃はそんな質問をしてきた。 「どんなって、なあ?」 「わたしとお兄さんはただの…。」 そしたら桐乃が、 「こ、恋人さん、なんですか?」 えええええ!!??俺とあやせが!?ありえねえよそんなこと!? つか今の一連のやり取りから何を読み取ったんだよ!?どうみても理不尽な女王さまに虐げられる奴隷の図だろうが!? あやせもあやせで「わ、わたしと、お、おおお兄さんが、こ、ここ恋人同士…。」などと顔を茹でらせて言っている。おい、しっかりしろ!いつものあやせはどこにいった!? 「違げぇーよ!俺の恋人はおま…」 「…いいな、恋人みたいで。」 ぷいっ、と拗ねる桐乃。 おそらく初めて見るであろう、親友のいじけた姿に慌てだすあやせ。 こんな予想外なことは想定外だったのだろう。 「桐乃…?わたしとお兄さんはそんな関係じゃないのよ?」 「そうだぜ?一回もそんな関係になったことなんかねーよ。」 そういうと今度はあやせから足をつま先で踏まれた。いてえよ!? 「そんなはっきり言わなくてもいいじゃないですか…。」 小声で何かをまた呟いている。頼む、こんな時くらい静かにしてください。 そしたら今度は逆方向から脇の下をつねられた。いてててて…!今度は何だ!? 「…。」 …桐乃だ。相変わらず、む~っと丸顔をさらに丸めてふくれっ顔をさせている。 「京介さんって、女の子からとってもモテるんですね?」 あの…桐乃さん? 「こ~んな綺麗な人から言い寄られて、あたしも妹として鼻が高いです。」 きゅうう!っとさらに脇の下をつねられる!いてえ!痛えよぉ! 「…。」 桐乃はひとしきり俺を睨んだ後、 「ふん。」 と言い残し、もと来た道を引き返し始めた。 「き、桐乃、ちがうの、待って?」 「桐乃、違うんだよ~。」 そうして俺とあやせの2人は高坂家への帰路へ着こうとする道中、弁解にその時間を費やされたのだったーーー。
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http //pele.bbspink.com/test/read.cgi/eroparo/1306742825/62-72 次の日、俺は秋葉原に来ていた。 遊びに来たワケじゃないぞ。ちゃんと対策を練るために、ある奴と待ち合わせしてるんだよ。 なんで秋葉かって? …そいつが指定してきたんだよ。 正直、秋葉は何度も来ているから別の場所にして欲しいと頼んだんだけど、そいつは秋葉以外、何度も行ってるから嫌だって拒否しやがった。 まあ今回は俺がお願いする立場だから、出来るだけそいつの要望に応えるのが筋ってもんだろうし、今回は文句を言わない。 携帯を開く。約束の時間は過ぎている。 「何やってんだ、あいつ…」 イライラしてくる。 これがあやせなら全然苦じゃないんだけど。 如何せん、俺自信あまり気に入ってねぇ奴だからイライラが倍増する。 「きょうすけくーん!」 と、突然デカイ声で誰かの名前だろうものを呼ぶ声が聞こえる。 きょうすけという名前に身に覚えがないわけじゃないが、ありふれた名前だから他人ってこともある。ここは聞かなかったことにしてさっさとここから離れよう。 「どこに行くの!?高坂京介くーーーん!!!」 「フルネームで呼ぶんじゃねえ!!!」 なに公衆の面前で人の名前を大声出して公表してくれてんのこいつ!? 「あ、聞こえたんだね!よかった!!」 「何が『よかった!!』だこのドアホ!」 駆け寄ってくるそいつの頭を、おもいっきり叩いておいた。 「あ痛ァ!」 涙を浮かべながら頭をさする姿を見たら、さっきまでのイライラも大分すっきりした。 「んで、何遅刻してんだお前?」 「イテテテ…、ちょっと仕事の方が長引いちゃって…」 「それならそうと連絡しろよ」 「そんなに遅れそうじゃなかったからいいかなと思って…」 「―――ハァ…」 こいつと会うのは3回目だが、相変わらず変な奴である。 「それはそうと、久しぶりだね京介くん」 「出来れば二度とお前には会いたくなかったけどな」 「酷いなぁ…ホントに」 そう言って顔をしかめるこの美形野郎は、御鏡光輝。 俺と同い年なのに、プロのデザイナー兼モデルという美少年。 いちいちわざとらしく見せるキザっぽい仕種も格好よく思えるほど、その容姿は完成している。 初めてあった時はなかなかいい奴だと思ったんだけど、後のあることによって、俺のコイツへの好感度はマイナスを下回っている。 そのため、こいつは俺にとってあまり会いたくない奴の一人なのだが…。 「会いたくないって言っているわりには、今日誘ってくれたよね」 「うっせ。理由がちゃんとあんだよ」 「うん、まあ、わかってた」 「わかってただァ?」 「友達だからね」 キザっぽく言うが、それが嫌味を感じさせない。コイツのスキルだ。 まあ俺はコイツが何を喋ろうとムカつくのだが。 「俺はお前を友達と認めない。つか拒否する」 「酷い!」 「いいから行くぞ!」 御鏡を置いて、歩き出す。 「あっ!ちょっと待って!」 「早くしろ!」 「そうじゃなくて!」 「…なんだよ?」 こっちは早く話を始めたいってのに。 「秋葉原、紹介してくれないかな?」 「…は?」 何言ってんのコイツ。 「僕、秋葉原には全然来たことがなくて…」 「…」 ああ、忘れてた。 こいつ、桐乃と同じ隠れキモオタだったんだ。 しかも属性が桐乃寄りの。 まあオタクで秋葉に来たことがないってなると、秋葉を回ってみたくもなるわな。 でも、出来れば早く話を始めたいんだが…。 つか、コイツの為に秋葉原を紹介してやる義理もねえし。 「…俺も詳しいワケじゃねぇけど、よく行くコースで良いなら教えてやるけど」 「全然!それで全然いいから!」 「たく…、さっさと行くぞ」 「うん!」 まあ、今日は俺の頼みを聞いて貰うつもりだし。 その対価に、こいつの頼みを聞いてやるか。 ―――それ以上の、理由はねえぞ。 「いやぁ、楽しい場所だね!秋葉原って!」 「…そうかい」 ある程度秋葉を回って、俺達は某ファーストフード店で話をしていた(メイドカフェはさっき行った)。 まあ、御鏡のオタ話を流し流し聞いているようなもんなんだけど。 「それで、京介くん」 「ん、なんだよ?」 「僕に用事って?」 このタイミングでそれを聞くかよ…。 話に脈絡もなかっただろうが。 ―――まあ、いっか。 いつ話をしようか考えていたとこだし、こいつが振ってきてくれたのは、正直ありがたかった。 「話ってのはな…」 俺は事の始まりを御鏡に話した。 とりあえず、あやせのことを一通り話し終えたのだが、御鏡は 「ああ、そのことか」 と、意外な反応を返した。 「知ってたのか?」 「うん、その子と一緒に僕もヨーロッパに行く予定だし」 「ん、どういうことだオラ?」 「た、ただあやせちゃんと美咲さんが一緒に行くのに合わせて、ついでに僕も連れていかれるってだけだよ?な、なんでそんなに睨むの…?」 なんだ、そういうことか。 付き添いとか言ったら危うくピーするところだったぜ。 つか、こいつ今あやせちゃん呼びやがったか?馴れ馴れしくして、どういう関係だ? …まあいい、今はそんなことを問い詰めるよりも大事な話があるし。 だけど、後日覚悟しとけよ?御鏡。 「な、なんか君に背中を見せるのが怖くなってきたんだけど…」 「安心しろ、気のせいじゃねえよ」 「全然安心出来ないよ!?」 「もうそんなことどうでもいいからよ、話を続けるぞ」 「僕の命がかかっているんですけど!?」 御鏡の叫びは無視して、話を続ける。 「それで、お前に協力してほしいんだよ」 「何に?」 「あやせの海外行きを阻止するのを」 「…本気で言ってる?」 「冗談言ってるように見えるか?」 「見えない」 「そういうワケだ」 「ちょ、ちょっと待って!」 「なんだよ?」 「今回の話は桐乃さんの時とは違うんだよ!?桐乃さんと違って、あやせちゃんはそのことを承諾してるんだから…!!」 「承諾つっても無理矢理だろ?あやせが嫌だって言えばいいだけならなんとかなる」 「そんな簡単に言うけど、あやせちゃんは多分、一度決めたことは梃でも動かない子だよ?」 「知ってる。そういうところは桐乃に似てんだよな」 「それに、それを阻止するっていうのはあやせちゃんの気持ちを踏みにじることになるんだよ?他人の京介くんにそんな資格があるの!?」 ―――あー、メンドくさい奴だなホント。 「…あのなぁ、んーなのはどうでもいいんだよ」 「めちゃくちゃだよ!?言ってること!」 「めちゃくちゃなのは承知の上だ!」 ダンッとテーブルを叩いて立ち上がる。 「納得いかねえんだよ!よりにもよって、なんであやせが連れて行かれなきゃなんねえ!?なんであやせは行くなんて言っちまいやがった!? 桐乃のためだァ?あいつはホントにそう思ったのかよ!? …だとしたら言ってやんなきゃいけねえ!聞いてやんなきゃなんねえ!!止めてやんなきゃなんねえ!!!あいつに本当の気持ちを…言わせなきゃなんねえんだよ…!!」 俺は床に座り、手を付ける。 属にいう土下座だ。 「桐乃が泣いてたんだよ…。助けてって、俺にすがりつくしかないぐらい、苦しんでんだよ…!俺だって苦しいし悲しい! …でも、桐乃の為にも、自分の為にも、あやせの為にも…!立ち止まって考えてる暇なんてねえんだよ!もう思い付く全てにすがって頼むしか出来ねぇんだ…!!」 俺だって、桐乃と同じだ。 一人じゃ何にもできないから、誰かに頼るしかできない。 頭を下げても、恥を忍んでも、俺にはこうするしかできねえんだ。 「―――頼む御鏡!お前の力、貸してくれ…!!」 「きょ、京介くん…」 土下座しながら、俺はあの時のあやせを思い出していた。 『―――さようなら、お兄さん』 そう言って微笑んでいたあやせを。 その時フラッシュバックしてきた光景は、桐乃だったんだ。 『―――じゃあね、兄貴』 そう言って、アメリカに留学していった桐乃となんら変わらない。 あの時は、もうどうすることも出来なかったけど、今回はまだ時間があるんだ。 何もしないで後悔するよりは、全力を尽くしたほうがいいに決まっている。 「―――キミのことを、僕は少し勘違いしていたのかもしれないね」 御鏡が、ゆっくり口を開いた。 「桐乃さんの為に身体を張っている姿を見て、僕は京介くんのことを『理想の兄貴』みたいに思っていたんだ」 「んなわけねーだろ」 キッパリと否定する。 「桐乃の時も、今回のこともなんだかんだ言っても結局自分のためだ。桐乃の為でも、あやせの為でもねぇ」 「うん、わかってる。京介くんは僕が思ってた以上に自分勝手で、わがままで…いい加減だ」 …わかってるけどさぁ。 改めて言われるとなんか傷つくな…。 「でも、そんな京介くんだから、守れるのかもしれないね」 なんか勝手に納得されてるけど、俺にはよくわからなかった。 「わかったよ。そこまでさせてノーとも言いづらいし。―――僕個人としても、京介くんに協力したくなった」 「本当か御鏡!?」 「うん。だけど、話をする場を設けるぐらいしか、僕には出来ないと思うよ?それでもいいかな?」 「十分だ!話は俺がつける!!」 「うん、僕もその方がいいと思うよ」 「本当にすまねえ御鏡!」 もう一度、俺は頭を下げた。 「―――まぁ、それはいいんだけど…」 「ん?どうした?」 「いい加減、立たない?目立ってるよ?」 その後、再びこの店に来たとき、俺が『土下座男』として語り継がれていることを知るのだが、それはまた別の話である。 ―――そうして後日、 俺は緊張していた。 原因は、俺がいる場所だ。 株式会社エターナルブルー日本本社。 ヨーロッパに本社がある、高級化粧品メーカーの日本本社だ。 化粧品メーカーではあるのだが、化粧品だけに留まらず、別ブランドでアクセサリー等も扱っている世界でも有名な会社…らしい。 なにせ、それを思い出したのはつい最近で、曖昧な入れ知恵のため、俺はよく分かってないんだよ。 なぜそんな場違いなところに来ているかというと、御鏡の指定した場所がよりにもよってここだった。 実は、御鏡は、エターナルブルーの別ブランドを任されているアクセサリーデザイナーという一面も持っている。 御鏡に相談したのも、その一面があってのことだ。最も美咲さんに近い存在だからな(ちなみに美咲さんが社長をやっているのが、このエターナルブルーだ)。 だから、話す場所なんかも御鏡に頼んだら、まさかの会社内だ。 受付の人とか、すれ違いざまに見てくる人とかの視線が痛い痛い。 「早くこいよ、御鏡ィ…」 「もう、来てるよ?」 「は?」 声がしたほうを見ると、すぐ近くに御鏡がいた。 「お前…いたなら声かけろよ」 「いやぁ、慣れない場所で落ち着かない様子の京介くんを見てたら、なんか面白くて」 とりあえず一発叩いとく。 「イッタい!!」 「バカ言ってねえで早く行くぞ。準備終わったんだろ?」 「うん。今、二人で話をしてるよ」 「うっし!んじゃ、案内よろしく」 「社内も案内しようか?」 「いいよ、二度と来ねえだろうし」 「わからないよ、将来ここで働いているかもしれないし」 「ないない。いいからさっさと案内しやがれ」 「はーい」 御鏡に付いて、俺も歩き出す。 なんかさっきよりジロジロ見られている気がするが、気にしないようにする。 つか、広いなぁオイ。 流石世界で名を上げている会社だ。設備もパネェ。 何もかもが俺にとっては、目新し過ぎて、ついキョロキョロしてしまう。 「ここだよ、京介くん」 「へ?」 気づいたら、扉の前にいた。 いつの間に着いたんだよ。 目の前の扉を、じっと見る。 他と比べると、結構小さな扉だった。 「大きな会議室は少人数には無用だろうと思ってね。個人面接なんかで使う会議室にしたんだけど、よかったかな?」 「全然オーケーだ。むしろナイスだ、御鏡」 話しやすい環境にしてくれたことに感謝するぜ、御鏡。 ―――ここに、美咲さんとあやせがいる。 ドクン、ドクン、と心臓が高鳴ってきた。 ここに入ると、逃げることは出来ない。それに、失敗も許されない。 最初で最後のチャンスと思わなければいけない。 「京介くん。前に言った通り、美咲さんとあやせちゃんには、今日君が来ることを知らせていない。それに、二人と僕達以外にこの部屋には誰も入らない。完全に、美咲さんとあやせちゃんだけと話をする場所になっている。―――心の準備は、いい?」 深く息を吸って、吐く。 ここまで来たら、後はなるようになれ、だ。 「オーケー、行こうぜ」 それを聞いた御鏡は軽く微笑み、扉を開いて中に入って行く。 それに、俺も付いて行った。 中は、少し小さなテーブルに、椅子が前後2つずつ置かれた若干狭い会議室になっていた。 すでに対面で座っている二人が、こちらに目をやる。 俺を見るなり訝しげな目を向ける美咲さんと、ありえない物を見たように驚いている、あやせ。 やっと、顔が見れた。 思わず顔が緩む。 「…御鏡くん、どういうこと?」 鋭く、突き刺さるような声で、御鏡に問う美咲さん。 「いやぁ、どうしても話がしたいって言って、聞かなかったので…」 しかし、そんな刺のある言葉も気にした様子もなく、御鏡は軽く言う。 と、そこで美咲さんの視線がこちらに向けられる。 「あなた…、桐乃ちゃんの彼氏、だったわよね」 「覚えていてくれたんですね」 じゃあ、話は早い。 「んじゃ、桐乃の彼氏ってのは、嘘だったってことも、知ってますよね?改めて、高坂京介。高坂桐乃の兄です」 「…それで、桐乃ちゃんのお兄さんが、今更何の用かしら?桐乃ちゃんのことはもう諦めたから、あなたに話すことはないわよ?」 「いやぁ、それが俺にはあるんすよ」 「あら、何かしら?」 あやせが座っている横に移動し、本題を切り出す。 「あやせの海外行き、なかったことにしてください」 「…なにを」 「ちょ、ちょっとお兄さんなにを言って…!」 あやせの言葉を遮り、話を続ける。 「海外に行くのは、もう少し先ですよね?だから、今のうちにキャンセルしてほしいんです」 「無理よ。もうこれは決定したこと。私にとっては最優先事項なの」 「そりゃ奇遇だ。俺の最優先事項は、あやせの海外行きをやめさせることだからな」 「…あなた、あやせちゃんの何?」 「知り合いです」 「そう、友達でもなく?」 「ええ。ただの知り合いです」 「なら、あなたにあやせちゃんが自分で決めたことを止める権利なんてないんじゃないかしら?親友の桐乃ちゃんならまだしも…、家族でもなんでもない、ちょっと知っている程度のあなたに」 「普通ならそうでしょうよ。俺もそんなこと、重々承知の上です。―――だけど、止めなきゃならない理由があるから、俺はここに来たんです」 「理由?それはあやせちゃんの将来を奪うことになっても、止めなきゃならないような理由なのかしら?」 「当たり前です」 キッパリと、言ってやる。 「なら、聞かせてくれない?その理由とやらを」 「桐乃に頼まれたからです」 「…は?」 美咲さんは、『何言ってんだコイツ』みたいな目で俺を見ている。 「あなたは、何?妹にお願いされた。…それだけの理由で、止めに来たと言うの?」 「ええ、そうですよ?」 そう、言ってんじゃん。 「あいつ、落ち込んでたんですよ。あやせが海外に行くって知って。そんで泣きながら俺に頼んできたんです。―――これで止めてやんなきゃ、俺がやるせなくなっちまう。だから、止めにきたんです」 そう、桐乃やあやせの為じゃなく、俺自身の為に。 「それに、どんな条件を出したのか知りませんけど、あやせは桐乃の親友なんです。あいつの為にも、こいつの為にも、二人を離すわけにはいかないんです。だから、取り消して下さい」 「…あなた、言ってることが無茶苦茶よ?」 まあ、そうだろうな。 桐乃と俺の為に海外行きを取り消せなんて、自分勝手にも程がある。 だとしても、 「俺には、それ以上の理由はないんですよ。――つか、他のどんな理由もいらないんです。俺は、この理由一つで、あんたを納得させるつもりですから」 「………」 ―――実は、秋葉での御鏡と俺の話には続きがある。 話をする場所、日程などはその時は決まらなかったのだが、ある程度の対策を練ることはしていた。 「京介くんも一度話してわかったと思うけど、美咲さんはとても手強いよ」 「ああ。それはよくわかる」 心を見透かしているようなあの目を、今も覚えている。 「だから、まず正論で討論したら勝ち目はない。だけど、京介くんならなんとかなるかもしれない」 「具体的にはどうすればいいんだ?」 「何もしなくていい。いいや、何もしちゃダメなんだ」 「はぁ?」 負け試合してこいって言ってんのかコイツは? 「あ、いや勝てないって言っているんじゃないんだ」 と、俺の心を見透かしたように言う。 「んじゃ、どういうことだよ?」 「京介くんは、理屈なんて通じない。どんなに正論を並べたって、自分勝手な意見で、頑として譲らない。―――そして、最終的に、無理矢理相手に言い負かされたような錯覚に陥らせる」 「…酷い奴だなオイ」 「そうだね」 自分自身に向けた皮肉に、御鏡はフォローもしようとしない。なんか腹立つな。 「だから、京介くんはそのままで戦うのがベストだ。何も考えずに、素直にぶつかっていったほうがいい。そうすれば、多分勝てる」 「結構な自信だなオイ」 お前のことじゃねーのに。 「うん。僕自身が京介くんに負けたからね。大丈夫だよ」 「…そうかい」 いつ、俺がお前を負かした?覚えがないんだが… 「物忘れが早すぎるよ、京介くん」 何故か、御鏡はクスクスと笑っていた。 わけがわからん奴だ。 ―――と、そのアドバイスのおかげ…ってわけでもないが(今までこの話を忘れていたからな)、順調な滑り出しのようだ。早速、美咲さんが言葉に詰まっている。 だけど…、本当の戦いは、ここからだ。 美咲さんを負かしても、コイツが断らないと、意味がない。 ただ、コイツは非常に頑固で、一度決めたことは譲らない、桐乃に似た性格をしているため、一番厄介なのだ。 「さっきから黙って聞いていたら、勝手なことばかり…!」 そう言って、隣で勢いよく立ち上がった… 新垣あやせが、最も厄介だった。 「―――少ししか話したことがないから、なんとも言えないんだけど…。あやせちゃんを言い負かすのは、正直最も難易度が高いことだと思うよ」 あの時、御鏡はそう言っていた。 「奇遇だな。俺もそう思う」 俺もそれには大いに同意だった。 「だから、あやせちゃんには本当の意味で、本音をぶつけないといけないと思う。嘘八百を並べたって、あやせちゃんには通用しない」 「だろうな」 あの時俺が付いた嘘も、嘘だったってバレてたらしいし。 「でも、恐らく彼女が一番の嘘つきだろうね」 「ん?俺のあやせを馬鹿にしたか今?」 殴るぞキサマ。 「そうじゃないよ、彼女は思い込みが強いだろうから、自分の本音じゃない嘘の自分を、自分だと信じ込んでいると思う」 ―――こいつ、あやせとは少ししか会ったことがないんだよな?なんでそこまでわかんだ? 御鏡は、あまり敵に回さないほうがいいタイプのようだ。 あの時御鏡に喧嘩売った俺、よくやったよホント。 「だからあやせちゃんに勝つためには、あやせちゃんの本音を引き出すしか方法はないだろうね。そして、それが出来るのは…」 「俺だけってか?」 「御名答。だから頑張ってね」 「簡単に言いやがって…」 あやせに刺されたりでもしら、お前を呪うからな御鏡。 ―――そして、ついにその時が来た。 「さっきから聞いていれば、お兄さん自分勝手な意見ばかりじゃないですか!私の意見も聞かないで、勝手に話を進めないで下さい!!」 俺に向かって、怒鳴るあやせ。 ぶっちゃけ迫力あって怖いんだけど、こんなんで負けてはあまりにも惨めなので、負けじとあやせの方に身体を向ける。 あやせの目を見る。目を離すこともなくこちらを睨んでくるあやせは、やっぱり怖い。 「んじゃあやせ、お前に聞くけどさ」 「な、なんですか…?」 「お前は、桐乃と離れるのは嫌じゃないのか?」 「…そんなの」 あやせは拳を握り締め、何かに耐えるように顔をしかめた。 「嫌に…決まっているじゃないですか…!」 そうだな、お前は俺に言ったよな。 離れたくないって。 桐乃と離れ離れになるのは、絶対イヤだって。 「だったら、なんであいつと離れる選択をしちまうんだよ?おかしいじゃねえか」 「それは…」 あやせの言葉が詰まる。 「お前は桐乃のためと思ってるのかもしんねーけど、それで桐乃を悲しませてたら元も子もねえだろうが?」 「そう…かもしれませんけど」 「そうかもしれない、じゃなくて、そうだろうが!桐乃の為を想うなら、桐乃の傍にいてやってくれよ!あいつには、お前が必要なんだよ!!」 「…桐乃桐乃って、さっきからそればっかり…!」 あやせの目が更にきつくなった。 ヤバい、マジ怖い。 こんなあやせ、初めて見た。 「桐乃なら大丈夫です!…桐乃にはソッチの友達がいるんでしょう!?それに、加奈子だっています!!」 ちなみにソッチというのは、桐乃のオタク趣味のことだ。何度も言うが。 「私の代わりなんて…いくらでもいるじゃないですか!!」 「お前…!!!」 あやせの口から、一番聞きたくなかった言葉。 誰よりも桐乃の親友であるかとを誇りとしていたあやせから、『自分の代わりはいくらでもいる』なんて言葉を、聞きたくはなかった。 「あやせ、それ本気で言ってんのか!?」 こちらも、更にあやせに詰め寄る。 「お前と桐乃が喧嘩した時、桐乃言ったよな!?『アンタと同じぐらいエロゲーが好き』だって!!」 …あれは今思い出しても、何言ってんだって思うトンデモ発言だった。 桐乃は、あやせかエロゲーかという選択に、どちらかという選択をせずに、どちらもという選択をしたのだ。 やると決めたこと全てに全力を注ぐ、桐乃らしい選択だった。 「あいつは、諦めなかったんだ!お前も、エロゲーも、自分の大好きなもの全部!!…それなのに、お前は簡単に諦めちまうのかよ!?」 「―――大好きな桐乃を、そう簡単に諦めんのかよ!!?」 もう、誰の声も耳に入らない。 唯一俺に聞こえるのは、目の前のあやせの声だけだ。 「だったら尚更行かせるわけには行かねえ!力づくでもお前を止める!!んな馬鹿なことを言ってるお前を、俺はそのまま見捨てるなんて出来ねえ!!」 その時、 パンッいう乾いた音と、俺の右頬に衝撃が、同時に響いた。 あやせが、平手打ちをかましてきやがったのだ。 「いっ…てぇ…!」 「お兄さんに…お兄さんに何がわかるんですか!?」 右頬を押さえながらあやせの方に向き直ると、 「あ…やせ…?」 ボロボロと涙をこぼすあやせが、そこにいた。 「私は、ずっと桐乃の為に…桐乃を守る為に、全力を尽くしてきました!桐乃の親友でありたいから…!!桐乃の傍にいたいから!!!」 ぐしゃぐしゃの顔になりながらも、あやせは怒鳴り続けた。 「でも!全部自己満足だったんです!!桐乃を守っていたのも、桐乃の傍にいたのも…、全部、全部お兄さんだったんです!!!」 「…!!!」 「悔しかった…!私が何年もかけて築いてきたものを、お兄さんはたった数ヶ月で超えてきた!! 桐乃の為に私が出来なかったことを、お兄さんはいとも簡単に成し遂げた!! ―――だから、悔しかった!羨ましかった…!お兄さんという存在が、憎くて憎くて仕方がなかった!!」 初めて聞いた、あやせの本音。 異常なぐらい桐乃の為を思ってくれて、桐乃の心配をずっとしてくれていた、少女の嫉妬。 俺は、そこまで憎まれていたのだと、今初めて実感した。 平気なのかって? ショックに決まってんだろうが!!!! やべえ、本音が聞けたけど泣きそう。俺負けそう。 「…でも、それ以上に」 と、あやせの話は終わってなかったようだ。 「お兄さんという存在が…、私にとっても、必要になってたんです」 「…え?」 俺が、なんだって? 「私が桐乃の誕生日プレゼントを考えるのを手伝って貰った時、本当は会うのも嫌でした。 ―――でも、桐乃の一番欲しい物を知っているのはお兄さんしかいないと思ったから、お兄さんにお願いしたんです。 そんな私に…あんな酷いことをした私に、お兄さんは嫌とも言わずに、協力してくれましたよね?私、わからなかったんです。なんであそこまで協力してくれたのか」 あの時、俺は桐乃が欲しいであろうプレゼントに、メルルのコスプレ大会の優勝商品であるメルルの限定フィギュアを提案した。 そんで、メルルにめっちゃくちゃ似ている生意気中学生の来栖加奈子のマネージャーになってやったんだったっけ。 「その後も、私の個人的なお願いなんかも聞いてくれて…。私は、本当にお兄さんっていう人がわからなかったんです」 「―――だけど、そんなお兄さんに惹かれていっている私がいて…、憎くて仕方がないお兄さんのことを考えちゃう私がいて…!」 「あやせ…?」 おいおい、これって… 「そうして、私気づいたんです…。お兄さんは、桐乃だけじゃない、皆に優しいんだって。助けを求める全てに、手を伸ばしてくれる人なんだって」 言いすぎかもしれませんが、とあやせは付け加えた。 「それに気づいた時、もっとお兄さんに惹かれいく私がいたんです。―――必要もなく、手を伸ばして欲しいと思う私がいたんです」 そうなのか? いつも会うたび会うたび、嫌そうな目をされてた気がしてたんだけどな。 「でも、一番お兄さんを必要としているのは、桐乃なんです…!私は、お兄さんを求めちゃダメなんです!お兄さんは、桐乃の傍にいてあげなきゃダメなんです!! ―――そう思っているのに、私はお兄さんを求めたくなっていくんです。…お兄さんが、必要になっていったんです」 あまりにも唐突過ぎる衝撃的告白に、言葉が出なかった。 「だから、いい機会だと思ったんです。この話を貰った時。桐乃の為にも…、私の為にも」 …おい。もしかして、それは 「―――お前が海外に行くのを決めたのって、桐乃の為であり、…俺のせいだったのか?」 あやせは、イエスともノーとも言わず、沈黙している。 だけど、この状況でこの沈黙は、ある意味答えのようなものだ。 「そっか…」 何となく、そんなことを呟いていた。 御鏡に目をやる。 微笑んで、こちらを見ていやがった。何がおかしいってんだコイツ。 『―――あやせちゃんには、本当の意味で、本音をぶつけないといけないと思う』 リフレインしてくる言葉。 ああ、わかってるよ。 「…あやせ」 あやせの肩を掴む。 桐乃と同じぐらい、小さい肩だ。 こんなに小さいのに、誰かの為なんて、いっちょ前に考えてたのかよ。 お前も、桐乃と同じぐらい馬鹿な奴だな、あやせ。 最初から、俺に話してくれてたら、よかったのによ。 「あやせ、行くな。ここにいろ」 肩を掴んだまま、言う。 「無理ですよ。またお兄さんを求めたくなってしまいます」 「求めればいいじゃねえか。迷う必要も、悩む必要もねえ。いつでも俺はお前の為に傍にいてやる」 「…わかっています、お兄さんがそう言ってくれることは。――それが、苦しいんです!私には、お兄さんに優しくしてもらう資格なんてないのに…!」 「資格ってなんだよ?そんなもん、存在しねえよ。俺がいいって言ってんだから」 「その言葉に甘えたら、私が桐乃を裏切ってしまうかもしれない!それも、怖いんです!」 「大丈夫だ。それで喧嘩しても、俺がなんとかしてやる」 「…でも!私はお兄さんの妹でもない!赤の他人なんです!そんな私が」 「こっちを見ろあやせ!」 ビクッとしたあやせは、下を向いていた顔を、ゆっくり上げた。 その目をじっと見る。